13
博斗は、緩慢に首を横に振った。
「それは、いまの俺には出来ないよ、ひかりさん。俺は心からあなたを愛しているけれど、駄目なんだ」
「あなたが私の血をひいているからですか?」
「違う!」
博斗は、ひかりの肩を鷲づかみにした。
「そんなことは、オシリスの記憶が入りこんできたときから知ってたさ! ああ、そうだとも! 俺は、ひかりさんとオシリスが愛し合った結果生まれた赤ん坊から数えた、遠い子孫だ! つまりひかりさんは俺の遠い母親にあたるってわけだ! 母と息子が結ばれるなんてことは、まっとうな人間社会じゃ許されないことだ! けれど!」
博斗は、ひかりを再び抱き寄せると、髪の間に手を差し入れて、きつく唇を合わせた。
「…」
ひかりの眼からあふれた涙が、重なり合った二人の唇に流れこんできて塩辛い味のキスにした。
「そんなことじゃないんだよ、ひかりさん。俺のひかりさんへの気持ちは、ずっと変わっていないんだ。一万年経っても、色褪せてなんかいない」
博斗は、ひかりの体をそっと離した。
「…ただ、いまの俺を支配しているのは、ひかりさんへの想いをも上回る熱望なんだ。ひかりさんとは違う女性を愛してしまっているんだ」
「……」
「……」
「わかっていました。だんだん、あなたの眼があの人に向いていくのが。しかしそれも、私が選んだ道。私があの人に歩ませた道」
ひかりの顔つきが、ぐっと険しくなった。
戦う人間の顔だと博斗は思った。
「もしいま、あなたに愛されていたら、私はその優しさにくじけて、なにもかも台無しにしてしまうところでした。これで私にも、迷わず戦う覚悟が出来ました。博斗さん、ありがとうございます。明日、私はすべてをかけて、兄を倒します」
ひかりは、黙礼すると、博斗を二度と見ようともせず、顔を伏せて校舎のなかに走り去った。
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