12

「瀬谷君」

後ろから、快治の声がかかった。


「明日は、君たちスクールファイブ、すべてを賭けて戦うときのようだ。マヌ総帥の力はシータのおかげではっきりとわかったはずだ。マヌを前にして、ホルスごときに負けているわけにはいかんぞ」

「わかってます。全力で、いきますさ」


「私には、なにか出来ることがあるか?」

「理事長は、武器がないんだから、なにもわざわざ危ない目にあうことはない」


「…そうか」

快治は、なにか言いよどんだがうなずいた。

そして時計を見た。

「うむ。そろそろ理事長式辞の時間だ。戻らなければ」


博斗は、理事長の姿が見えなくなるまで見送ると、あらためて正面からひかりに向き直った。


「ひかりさん。俺に言うことがあるんじゃないのか?」

「はい」


ひかりは遠い眼をした。

唇がゆっくりと開いた。

「私は、博斗さんに隠し続けてきたことがあります。戦いのため、それが必要だったと判断してのことです。しかし、ホルスがこうして来たいま、それを隠すことにはもはやなんの意味もなくなりました。私は、自らの手で兄を、ホルスを討たなければなりません。私自身の甘さへのせめてもの罪滅ぼしに…」


「よせ、ひかりさん!」

博斗は、ひかりを抱きしめた。

「それ以上自分を追いつめるな。ホルスは俺達全員の敵だ。ひかりさんにはその決心だけで充分だ」


「博斗さん…」

ひかりは、博斗に抱かれたまま背中をつかんだ。

震えている。


「博斗さん」

「なんです、ひかりさん?」

「お願いがあるのです」


博斗は、ひかりの体を離し、前に立たせた。

「聞きます」


ひかりは、言った。

「私を、愛してもらえませんか?」

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