13

かくして、翠と玉次郎は、お椀に入れたカレースープを持って、生徒会室のドアを開いた。


「夜食をお持ちしましたわ」

翠は、おそるおそるカレースープを遥と博斗に差し出した。


「夜食ぅ? なにこれ、スープ? 誰が作ったの?」


「僕の母ちゃんだよ」

翠の後ろに隠れていた玉次郎が言った。

嘘だけど、でも半分は当たっているような気がすると玉次郎は思った。


「たまちゃんじゃない。はろはろ。…ほんとでしょうね? 翠が作ったりしてないでしょうね?」


「わたくし、料理なんかこれっぽちも出来ないのですわ」


「あ、ついに白状したわね。いいわ、信じてあげる。ちなみに…野菜なんか入ってないわよね。入ってたら、あたし、また暴れちゃうんだから」


「大丈夫、大丈夫」

翠と玉次郎は口を揃えた。


遥は、まだ首を傾げていたが、確かにお腹も空いていることだしと、なんにも具が入っていないカレースープらしきものをスプーンですくって口に含んだ。


ほりほりと頬をかきながらやってきた博斗は、翠を見て、なぜかにやっと笑うと、スープの椀を手に取ると、がばっと一口に飲み干した。


「やったあ!」

二人が飲んだのを見ると、玉次郎と翠は抱き合って歓声を上げた。


「う?」

遥は舌を出した。

「なに、これ? なんか…独特な味ね。なんというか…マズイわ」


「まずくて結構ですわっ! だって、わたくしが作ったんですもの!」

翠は快活に笑った。


「げっ! やっぱりそうだったのね! よくもまあ、こんな毒物あたしに飲ませたわね!」

つかみかかろうとした遥の目の前に、翠はすっとニンジンを突き出した。


「なによ、あたしは馬じゃないわよ! ニンジンなんかで誤魔化されると思ってるのっ!?」

遥は吼えた。


「やった! 成功してるよ!」

玉次郎と翠は顔を見合わせて、そして大笑いした。


「ニンジンだな。俺も、ニンジン見てもなんともないぞ。治ったんだ」


「まあ、そういうわけですわ」

と翠は得意げに笑った。

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