11
遥は、左腕をぽんと叩いた。
刺繍入りの腕章が腕に戻っていた。
「腕章はずっと腕にあったのよ。ただ、あたし達に見えなかっただけ…」
遥は、心に聞こえた言葉を反芻した。
「あたしは、あたしがいったい誰なのか、それがずっと知りたかった。あたしは望さんの真似をしてるだけなのか、博斗先生に憧れているだけなのか。少しだけ、わかりかけている。あたしは、あたしなんだ。そういうのぜんぶひっくるめてあたしなんだと思う」
「わたくしは、素直になりたかったのですわ」
翠が言った。
「わたくし、自分のことが好きだけれど嫌いでもありましたわ。少なくとも、わたくしのような思いをして育つ子どもはいないほうがいいのだと思いますわ」
由布はぽつりぽつりと言った。
「わたしは、過去を乗り越える必要があります。思うんです。血より濃い絆は、ほんとうにあるんだと。人にとって、血のつながった家族より大切なことがあるのかもしれません。わたしには、そう思えるのです」
三人の目が、燕に注がれた。
燕は目をぱちくりして、そしてにこっと笑った。
「つばめは、ひとつだけ。なんだっけ。いまのまま、決して笑顔をなくすな、って。だから、つばめはこのまんまでいいんだと思う。いつでもにこにこしてるのがいいんだと思う。どんなことがあっても、つばめは元気に笑うよ」
燕は、桜をつついた。
「う、僕? …僕は、人智の素晴らしさと限界を理解することが課題だと。僕には、一人分じゃなくて、もっとたくさんの知識がある。それを少しずつ整理しながら答を探し続ける。きっとそれが僕の使命なんだと思うし、僕自身、それでいいと思う」
遥は優しい目になって、大好きな仲間達を見つめた。
涙腺が緩みかけたことを誤魔化すために、白い霧の天井を見上げて、遥は叫んだ。
「さあ、怪人を見つけて叩くわよ!」
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