10

遥は震えていた。

心臓が喉から飛び出しそうだ。


これは、なに? なぜあたしがもう一人いるの? それに、腕章をしている。


なにかの本で、なんだったかな。桜が読んでた怪奇現象とかの本。

もう一人の自分、ドッペルゲンガー。

ドッペルゲンガーを見た人間は、必ず死ぬことになる。


「あなた達は、何者?」


向こう側の遥達は笑った。

「わかっているでしょ。あたし達は、陽光学園生徒会よ」


「な、なに言ってるの? あなた達は…そうか、わかったわ。怪人がつくりだしたニセモノなんでしょう? その手には乗らないわ」

遥はやや腰を沈めて身構えた。


「なんのことかな」

向こう側の桜が言った。

「ニセモノは君達じゃないのかな。だって僕たちには腕章がある」


「そんなの、ニセモノですわ!」

「そんなことは、どっちでもいいと思いませんか?」

向こう側の由布が笑った。


「どちらがもともと本物でニセモノだったかということは、無意味なことです。結果がすべてです。これから、わたし達が、ほんとうの陽光生徒会、スクールファイブになるのです」


「ち、違う! そんなの間違ってる!」


「間違ってなんかいないわ」

遥達は、ぴったりとくっつきあった。


自信がなくなってきた。

もしかしたら、ほんとうに、そうなのかもしれない。


あたし達は、ニセモノ? 向こうにいる遥達が本物?


「さあ、消えて。スクールファイブは二つもいらないわ」


「違う違う! 絶対違う! あたし達はニセモノなんかじゃない!」

遥は翠の襟をつかんで揺すった。

「去年のいまごろ、あたしとあんた、会長選挙で戦ったの、覚えてるでしょ?」


「もちろんですわ! もう、いまさらそんなこと思い出させないでいただけます? またムカムカしてくるじゃありませんの」


「ムカムカしたっていいから、思い出して! いろんな事があったじゃない。あたしのなかには、みんなとの想い出がつまってる。 あたし達の誰一人だって、ニセモノなんかじゃないわ!」


翠が、目を反らして、きゅっと遥の手を握った。

「…そんな、わかりきったこといまさら言わないでいただけます?」


由布は反対の手を握った。

「わたしにとっては、もう一つの家族です。決して、忘れるはずがない」


燕は、桜の首に手を回して引っ張り寄せて、二人まとめて三人に飛びついた。

「そうだよ。みんな、いっしょだよ。ずっと、いっしょだったよ」


桜は、よいしょと首を出して、向こうの遥を指差した。

「お前達の正体がわかったぞ! お前達は、僕達の幻影なんだ! 霧の中に置き忘れてしまった、心の中身を映した幻影だ」


「どうして腕章がそっちに行ったのか、やっとわかった気がします」

由布がそう言うと、急に、向こうの遥達の姿が霧の中にかすみ始めた。


「どういうこと? 教えて」


「あんた達は、あたし達の心。変身腕章は、心の力を源にする。あたし達の心自身が、あたし達をもっと強くしようと思って、やってくれたことかもしれない。あたし達は、自分の心と向き合う必要があった。自分の心にある壁はなにか、どうすればあたし達はもっと成長できるのか」


霧の壁は、完全な白色に戻り、もう一組の遥達の姿は完全に消え失せた。

そして、声だけが聞こえた。

声は、それぞれの心に一言ずつ言葉を残していった。

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