10

陽光川が陽光湾に注ぐ河口近くに、広い中州があった。

橋がかけられているわけではなく、都市高速の橋脚を伝って梯子で降りるか、川面から舟を使うかでもしなければこの中州に来ることは出来ず、そのため、ただ草がぼうぼうと生えているだけで、誰も見向きもしなかった。


ということで、ここがスクールファイブの次なる特訓場に選ばれ、そして、いままさに、スクールファイブの新たな必殺技が実現したところだった。


「完璧だ」

グリーンはうなずいた。

「ただ一つを除いて」


「ただひとつって?」

ブルーが不満そうに足踏みをした。


「実戦ですね?」

ブラックの言葉に、グリーンはうなずいた。

「そう。いくら完璧そうに見えても、実戦で通用するかどうか、試してみないとわからないこともある。それが出来るまではまだ完成とは言えない」


「やっぱり、次の怪人のときに出たとこ勝負してみるしかないのですかしら?」

「そうね…」

レッドは嘆息した。


川面に、静かに人影があらわれた。

「いますぐ実験してみるがいい」


「シータ! なんの用…って、聞くまでもないのかしら?」


シータは、滑るようにして川面を移動し、中州に降り立った。

「私は、お前達の新しい必殺技にとても興味がある。私にやってみないか?」


「なんですって?」


「聞こえなかったか?」

シータは、剣を地面に放り投げ、両手をだらんと垂らした。


「私からは攻撃せん。試みに、私に必殺技を試してみろ。私に回避されるようならば神官やピラコチャにも通用せん。私にうまく成功するようならば、さらに技を磨けば奴等をも打ち滅ぼすことが出来るだろう」


「そこまで言うのなら、わかったわ。やるときが来たみたいね。みんなは、オーケー?」


四人はうなずいた。

昨日の戦いで、シータが万全の状態ではないことに薄々みな気付いていた。

もしなにかの策なのだとしても、正面きって戦えばきっとなんとかなると確信していた。


「よし! スクールスティックよ!」

レッドは右手を真横に突き出した。


その手に、身長よりやや低い長さの赤いスティックが現れた。

スティックの先端には手のひらほどの大きさの、これまた赤いネットがとりつけられている。


同じように四人が、それぞれの色のスティックを取り出し、星型を描いてシータを囲んだ。


グリーンが左手に小さなボールを出した。そのボールをネットに放り込み、スティックを返してボールが落ちないようにすると、スティックを振ってボールを飛ばす。


そのボールは、斜めから飛んできたブルーのスティックに吸い込まれた。ブルーはさらに回転してボールを放り出し、ブラックへ、イエローへと、ボールが次々に送り出されていった。


シータはボールの目まぐるしい動きに翻弄された。

グリーンかと思えばブルー、ブルーかと思えばブラック、ブラックかと思えばイエロー、息をつく間もない。


シータがボールの行方を追ってレッドにようやく視線を合わせたときには、レッドはスティックを振りかざしてフィニッシュの体勢に入っていた。


「アターーーーーーックッ!」

レッドは体を弓なりに大きくしならせ、両手でスティックを肩越しにぎゅんっと振り下ろした。


ネットから射出されたボールは、赤熱して燃える塊となり、回避を許さない圧倒的なスピードで、シータの鎧に吸い込まれた。


シータは直撃を受け、完全に爆発に巻き込まれた。

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