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それから一時間ほどして、博斗とひかりと快治は、テーブルを挟んで顔を突き合わせていた。
「神官怪人との戦いでわかった課題と、その克服方法を整理してみようではないか」
博斗はうなずき、腕を組んだ。
「第一の課題、絶対的なパワー不足」
ひかりがその言葉をタイピングし、入力された文字がディスプレイに表示されていった。
「第二の課題、変身に要する時間の短縮。第三の課題、新必殺技の開発」
「ずいぶんと色々あるものだな」
快治はため息をついた。
「といっても、なんとかなりそうなものばかりだと思いません?」
ひかりがわずかに笑みをたたえて振り向いた。
「俺も同感です」
博斗はうなずいた。
「パワー不足は、コアの埋め込みをきちんとチューニングして、それから、彼女たちの心をさらに高めていけば、OKだと思う。変身時間の短縮と、新必殺技は、特訓してなんとかするって、自分達で言ってましたから」
「では、その他の問題点も整理してみましょう」
映し出された文字を博斗は読み上げた。
「現在のムーの戦力の分析」
「うむ。だいぶ弱体化はしているだろうが、しかし、彼らには眠っている兵器があるからな。どれほど追いつめたところで、総帥を倒し、すべての兵器を破壊するまでは一つも安心は出来んぞ」
「人的戦力はどうなってるんだ? えーっと、マヌ総帥がいて、ピラコチャはまだピンピンしてやがるし…」
「ホルスがいます。彼がいる限り怪人の製造は続けられます」
ひかりが言った。
博斗はひかりをちらりと見て噛み締めるようにうなずいた。
「ホルス、ね」
「それから、神官のコアがまだ残っている」
快治が重々しく言った。
「そうですね。全部で四つあったもののうち、一つは破壊できました。そしてもう一つは私達が使う。したがって、あと二つです」
「クロスムーみたいなのがまだ二匹も出てくるってことか…」
「ピラコチャも神官と同程度かそれ以上の力です」
「うへえ。気が遠くなる…。シータが消えてくれたのがせめてもの救いだな。少し残念な気もするけど」
「残念? なにがだね?」
「うまく言えませんけどね、シータは、あんまり敵じゃなかったような気がする。確かに敵対したことはあったけれども、ピラコチャとかとはどうも違う。なんつーかな、話せばわかるタイプだったように思うんです。だから、充分に分かり合えなかったのが、少し心残りだなあ、と」
「シータね…。私の記憶では、彼女はまさに黒い悪魔だったよ」
「悪魔…?」
「そうだ」
快冶はうなずいた。
「彼女は何かに憑かれでもしているかのようにためらいなく剣を振るった。ピラコチャがマヌの力強さを具現化していたとすれば、シータは、冷徹さを具現化したような存在だったな」
「俺が戦ってきたシータは、そこまで冷徹には見えなかった。むしろ、冷徹な自分に苦しんでいたようだった…」
「いずれにせよ、シータさんはすでにムーの側にはいません。彼らの戦力として数える必要はないと思います」
「ひかりさん、おかしな言い方をするんだな。シータは死んだんだから、あいつらの側もなにもないだろうに」
「え、ええ、そうでしたね」
博斗のオシリス的部分とでも言うべきなにかが、しきりにざわめいている。
なにかが、わかりかけている。
「なんにせよ、スクールファイブの個人戦闘力がどれほど高まったところで、まだ神官や幹部は少々手に余る相手のようだな」
「そうですね。それから、マヌ総帥…」
ひかりが視線をテーブルに落とした。
博斗はそんなひかりの横顔を見て思った。
マヌというのは、部下だったイシスでさえこんなに恐れるほど、そんなに手強いのだろうか。
博斗にはよくわからない。
オシリスであったときの記憶をたどっても、マヌというのは、ただ倒すべき目標だという認識しかなく、実際に剣を交えたことがあるわけでもない。
実際のことを言えば、オシリスは、アカデミーの頃に接したことがある他には、宮殿が海底に沈むときに幻影を見せられたという以外には、マヌと出会ったことがない。
いったい、どんな奴なのだろう。
「…幸い、神官怪人を出したからには、おそらくムーにもここ数日は新しい怪人を生む余裕はないはずです。私達に許された数少ない貴重な時間です。あの子達の力を、高めましょう」
「そうだな。なんにせよ、当座の課題はそれに尽きる。頼むぞ、瀬谷君」
博斗はうなずいた。
「では早速ですが博斗さん。あの子達から伝言です」
ひかりは、ルーズリーフの切れ端を博斗に渡した。
「なになに? 『新コスチュームが完成したので、学校の裏手の廃工場で変身の特訓をします。あとで差し入れ持ってきてくださ~い。ラブリー遥』」
博斗は肩を落とした。
「特訓はいいことだが、差し入れか…。うう、金が…」
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