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クロスムーとの戦いを終えた翌日のことだった。
なんとか六時限目まで授業を終えて、博斗は教壇から降りた。
利き手が使えないというのは思った以上に不便だ。
右手は包帯をぐるぐる巻きにされ、おまけにがっちりと外側から石膏で固められてぴくりとも動かない。
ひかりさんもなにもここまで徹底してくれなくてもよかったんじゃないだろうかと思うのだが。
教壇のまわりに集まってきた生徒達が、珍獣でも見る目つきで博斗の手を笑った。
「先生、どうしたの、この怪我?」
「うちで飼ってるピラニアに肉食わせようとしたら、間違えて噛まれたんだ」
「ええーっ!」
「って、んなわけないだろうが。驚くなよ」
「じゃあじゃあ?」
「うちのタマに噛まれた」
「タマぁ? 猫ですか?」
「いや。犬だ。土佐犬とポメラニアンの混血で…」
「ウッソ! 先生、からかってるんでしょ?」
「あ、わかる?」
「本当はどうしたの~? 気になる~」
「女の人に噛まれたんですよ。ね、博斗先生?」
遥が生徒達の間からひょこりと顔を出して手を突ついた。
「噛まれるか! なんてこと言うんだ、まったく」
「博斗先生といい、稲穂といい、なんか怪我人多くて困っちゃうわ」
「稲穂君がどうかしたのか?」
「博斗先生とおんなじ。手を怪我したんだって」
遥はそう言って、稲穂を引っ張り出した。
「ち、ちょっと、遥さん…」
稲穂は戸惑い気味に博斗の前に出された。
見ると、右手首に包帯を巻いている。
「どうしたんだ、その包帯は?」
「え、ええっと、ちょっと、火傷をしました」
稲穂は博斗に視線を合わせようとせず、そう言うと振り返り、遥が止める間もなくあっという間に教室を出ていってしまった。
「あ、あれ、ねえ、稲穂、どうしたのよ? あ、あはは、ごめんね、博斗先生、じゃあ、また後でっ!」
遥は稲穂の後を追うようにして教室を出ていった。
残された博斗は、まわりの生徒達に向かって肩をすくめてみせると、首をほりほりと掻きながら自分も廊下に出た。
なんだったんだ、いまの反応は?
手首の包帯。
包帯をしているからには、怪我をしているんだろう。
なんでそのことを聞いたぐらいで逃げるんだ? 遥には話したふうだったのに…。
廊下の途中で、博斗はいきなり立ち止まった。
突然やってきた恐ろしい推論だった。
思わず博斗は寒気すら感じ、壁に手をついた。
なにを考えているんだ俺は? そんなわけないじゃないか。ありえない。
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