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遥達がやってきた廃工場は、元は資材加工工場だったのだろうが、いまは若干の廃材が放置されているだけで、ガラスも割れ放題、「立ち入り禁止」の有刺鉄線が入り口に張ってあるにもかかわらず、近所の子ども達の探検の舞台だった。
もっとも今日は、ここを利用しているのは遥達だけだ。
「まだ遅ーい!」
桜の罵声が飛んだ。
「あと0.02秒ってとこだね」
桜は、クロスムーをそのまま小さくしたような形をした奇妙な装置を地面に設置して、後ろからその装置を操作していた。
向かい十メートルの場所に翠がふてくされた顔で立っていて、イライラと足踏みしている。
翠は足元に転がったカラーボールを拾い上げて、桜に投げ返した。
「怒らないでください。もう一回ですよ、翠さん」
「わかってますわよ、もう。どうしてわたくしだけ遅いのかしら」
「ぶつぶつ言わないで、頑張りなさいよ」
遥と燕は、腰の高さに積まれた鉄板に座って足をぶらぶらさせながら笑っていた。
「あとは、あんたが出来れば、念焼変身は完成するんだから」
「わかってますってば!」
翠は険しい顔で、桜がピッチングマシーンを改造してつくりだした「念焼変身養成マシーン」を睨みつけた。
いままでの0.4秒での強化服装着よりも十倍速い、0.04秒での強化服装着を実現するためのマシーンである。
なんのことはない、要するに0.05秒でカラーボールが当たるように射出されるだけの機構なのだが…。
すでに翠以外は0.04秒の壁をクリアした。翠も、あと一息だ。
「ようしっ!」
翠が腕章に手をかけると同時に、シャコンとカラーボールが射出された。
翠の体がみるみる黄金色の輝きに覆われ、カラーボールがそのなかに吸い込まれる。
遥は身を乗り出した。
「今度はどうなの?」
スクールイエローとなった翠は、右手でしっかりとカラーボールをキャッチしていた。
遥は鉄板から飛び降りて翠に駆け寄った。
「やったじゃない! やれば出来るのよ、あんただって!」
「あんただって、ってのは余計ですけれど。わたくしにとってこの程度のこと、朝シャンプー前ですわ」
「とにかく、これで念焼変身は完成だわ。あとは、スクールスティックを完成させること。スクールスティックさえ出来れば、もう、どんな怪人でも持ってこいってもんよ!」
ぞわぞわと空気が生暖かく流れた。
金属的な耳鳴りがして、頭を押さえつけられるような重い感覚が襲ってきた。
「…なんだ? なにか変だ」
桜はこめかみに手を当てて顔をしかめた。
「この感じは…」
「あそこです!」
由布が指差したのは、高さでいえば二階に当たる、工場の高窓だった。
この窓はガラスが抜けていて、人が一人通れるぐらいの空白となっているのだが、いまそこに、真っ白な影が腰かけていた。
白いブーツ、白いマント、白い装束、白い手袋、白い杖、そして、白い頭蓋骨。
「フハハハハッ!」
白百合仮面は高笑いしながら宙を舞って遥達の先に着地した。
「白百合仮面!」
遥に寄り添うようにして五人は身構えた。
はっきりと感じることが出来る。
いまの白百合仮面は、「敵意」を持っている。
「なんの用よ?」
遥は鋭く尋ねた。
「力を上げたお前達の力、試してみようと思う」
白百合仮面が杖を振り上げると、見えない糸に引っ張られるようにして、地面に落ちていた古臭いバッテリーがぽーんと宙に浮き、そして唸りを上げて遥達めがけて落下してきた。
「なっ!」
あわてふためき遥達はバッテリーを回避した。
バッテリーはゴガンゴガンと騒々しい音を立てて床を転がり、積まれた資材に衝突してさらにやかましい音を立てた。
ほっとする間もなく、バッテリーは再びぶうんと宙に浮き、放物線を描いて遥達に落下してきた。
「ちょっ! しつっこい!」
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