12

ピラコチャは目を開いた。


これといってぱっとしない風体の中年の男が、境内の入り口に立っている。


ピラコチャは、磔になっている男の表情を盗み見た。

明らかに驚愕している。

どうやら、当たりのようだ。

ピラコチャは境内に舞い降りた。


その横に幽霊のようにクロスムーが現れた。

「約束通り、一人で来たようですね」

クロスムーが笑いながら、接ぎ木をした左腕を揺すり、快治に近づいてきた。

「パンドラキーを出しなさい」


「待て。瀬谷君の無事を確認するのが先だ。彼は、ほんとうの瀬谷君だな? そして、生きているのだな?」


「当たりめえだろうが」

ピラコチャがめんどくさそうに振り向いた。


いない。


空っぽの十字架だけが宙に掲げられている。


「なんだとっ!」


目を丸くしたのは快治も同じだった。ピラコチャとクロスムーから視線を逸らさずにいたわずか一分もない時間の間に、いったいなにが起こったというのか?


「おのれ! 許さんぞおぉぉぉぉっ!」

ピラコチャは猛々しく咆哮すると、どーんと跳躍し、本堂の真上から十字架と辺りを見回した。

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