第三十八話「博斗暗殺計画(後編)」神官怪人クロスムー登場

第三十八話「博斗暗殺計画(後編)」 1

白い炎がクロスムーに襲いかかった。


クロスムーは身をよじり、炎から身をかわそうとしたが、わずかに遅れて炎の洗礼を浴びた。

どうっと炎が地面に吹きつけ、溢れて霧散していった。


どうなった?

博斗は震える手でグラムドリングを構えたまま目を凝らした。


クロスムーは立っていた。

そして一歩ずつ確かめるようにして歩いてきた。


クロスムーと博斗は、十メートルほどの距離をおいて対峙した。


そのときになってはじめて博斗は気付いた。

クロスムーの左腕にあたる腕木が、醜い裂け目を露出させて消え失せている。


「おのれ、人間が! たかだか人間ごときが僕の腕をもぎ取るとは…いかな油断していたとはいえこの屈辱!」


博斗はグラムドリングを握り直し、ぶうんと刃を出した。

もう、あとには退けない。

「俺達の大切な街をこれ以上メチャクチャにするな! 今度は体をぶっ壊してやる!」


「いい気になり過ぎです、人間が!」

クロスムーはそう叫び、博斗を睨んだ。


どんどんと震動が伝わり、笛を思わせる甲高い音が耳に響き始めた。

空気が震え、歪んだ。力が高まっている。


「憎悪、怒り、雪辱! 恨みよ僕の力となりなさい!」

クロスムーがそう叫ぶと、ひときわ強い衝撃がクロスムーを中心に起こり、空気が壁となって博斗を圧迫した。


博斗は、この怪人に勝てるという希望を一瞬とはいえ抱いた自分に失望し、どうどうとやってくる怪人の圧力に戦慄し、震え、後ずさりした。


「グバァエエェェ!」

クロスムーが、いかんとも表現しがたい唸り声を上げ、口から火球を吐き出した。


焼けるような熱い痛みが右手に走り、博斗は思わずグラムドリングを取り落とした。


「さあ、死になさい!」

クロスムーが両手を振り上げる。


しかしその眼前に、ずしゃっと音を立てて巨大な戦斧が突き立てられた。


ピラコチャがどすんと地面に降り立ち、クロスムーと向き合った。

「ったく、すばしっこい野郎だったぜ。結局見失っちまった。…おい、クロスムー。こいつはまだ殺すな」


クロスムーは怒りのためか身を震わせたが、うなずいた。

「そうでしたね…。スクールファイブの指導者。まったく、僕としたことが逆上してしまいましたよ」


ピラコチャはずんずんと歩いてきた。


博斗は跳んだ。

跳んで、離れた地面に転がっているグラムドリングを再びつかみとったが、しめたと思ったその瞬間、ピラコチャの象のように巨大な足が落とされ、博斗の右手を踏み潰した。


ミシャッという音がして手の甲の骨が砕けた。

あまりの痛みに博斗は正気を失い、舌を出し顔を歪めて吠えた。


腕を抜こうとしても、ピラコチャの頑丈で重い足はまったく動こうとしなかった。

指からグラムドリングが再び離れた。


ピラコチャが身を屈めてグラムドリングを拾い上げた。

「さて。かつてオシリスが持っていたこの剣を使う男よ。てめえにゃ色々と聞きたいことがある」


ピラコチャが笑った。

「よく見りゃオシリスとそっくりだ。まるで気にいらねえ」


「ううう、ううううっ!」

博斗はふんふんと身をよじり、自由なほうの左手で、情けない力だと知りつつもピラコチャの足を殴りつけたが、まるで鉄を殴っているようで、ガンガンと殴っているうちに博斗の拳の皮は破れ、血が滲み出してきた。


「まったく、悪あがきはやめろ。うっとうしいぜ」

ピラコチャは両手を組んで振り上げた。

そして、博斗の頭めがけて振り下ろした。

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