16

博斗は息を切らせて中央病院のロビーに駆けこんだ。

「望、望はどこにいるっ?」


「の、望? 中津川さんのこと?」

「そうだよっ!」

「それなら、後ろに…」

「へ?」

博斗が振り向くと、あきれ顔で望が立っていた。


「あのねえ博斗…」

望が言いかけると、駐車場のほうで鈍い爆発音が響き、地面が揺れた。

「な、なにっ?」


博斗は窓から外を見た。


来た。


クロスムーが、駐車場を斜めに突っ切って直進してくる。

爆発音は、奴が無理矢理に押しのけた自動車が炎上した音だ。


たちまちロビーがパニックに陥った。


「望!」

博斗は望をつかんで振り向かせた。

「患者と医者を誘導してすぐに逃げろ。大急ぎ! わかったか?」


「わ、わかるわけないでしょ!」

「うるさい! お前は頭がいいんだからわかる! さっさと行け!」


望は博斗の表情になにかを感じとったようだった。

「…わかったわ。行く。博斗はどうするの?」


「俺にはまだ、やることがある。大丈夫。ヤバくなったら逃げるから心配するな」

逃げられるんだったらな、と博斗は心のなかで付け加えた。

「さっさと、行け!」


人間達の悲鳴が遠ざかっていき、代わりにクロスムーの姿がだんだん大きくなってきた。


博斗にチャンスがあるとすれば、最初の一撃だけだろう。

クロスムーが、まさか一般人が攻撃をしてくるはずはないと油断しているその一撃だけ。


博斗はグラムドリングを取り出すと、逆さに構えて肩に掲げた。


静かにクロスムーの中心部分にあたる顔面を見つめ、空気のなかに見える原子のうねりをグラムドリングの柄に流しこんでいき、白い刃に変えた。

だが刃を長くせず、出来る限り圧縮したボール玉状にして柄の根元に溜め続ける。


悠然と歩いていたクロスムーが、膨れ上がった強力なエネルギーを感じたか、顔を上げた。

「な、なにものですっ?」


気付かれた博斗は、エネルギーを解き放った。

「くらえぇぇぇぇぇぇっ!」

一撃を放った反動で壁にしたたかに背中を打ち、かすれた息をして顔をしかめた。


白い炎が湧き上がり、うねりながら一気にクロスムーめがけて突き進んだ。

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