9
博斗は朝からなんとなく鈍痛を頭に感じ、憂鬱な気分でいた。
こんなに天気がいいというのに、なぜか気が重い。
今日は、なにかが起こりそうな気がする。
博斗は頭を振りながら階段を降り、教員室に飛び込んだ。
まわりの教師達の目も気にせず、机に突っ伏した。
すると、ひんやりとした手がうなじにあてられ、一瞬身が引き締まるように感じたが、すぐにそれが心地よい感覚に変わった。
ぼんやりと顔を上げると、不安そうな顔をしてひかりが覗いている。
博斗は同時にその顔にもう一つの表情も読み取った。
強い共感。
「ご気分がすぐれないのですか?」
「ええ。今日はおかしいと思いません?」
「それで疲れていらっしゃるのですか?」
博斗はうなずいた。
「ひかりさんの手、気持ちよかったです。ひんやりしてて」
ひかりは自嘲的な笑みを浮かべた。
「私は冷たい女ですからね」
「手が冷たい人は心が温かい人だってのが俺の持論でね。ひかりさんは冷たい人なんかじゃない。それは、俺がいちばんよく知っています。誰よりもね」
博斗は頭を振ると立ち上がった。
「さて。それにしてもこのおかしな気配。先手を打たれる前に確かめる必要がある。とりあえず俺は、理事長と相談してきます。ひかりさんは司令室でデータを分析してほしい」
「わかりました。彼女たちも待機させておきます」
「ああ、それがいいと思います。案外早く飛び出してもらうようかもしれない」
博斗は理事長室に向かった。ドアを開けて体を滑りこませると、理事長は、テーブルに拳を乗せて待っていた。
気のせいか、その表情が疲れているように見える。
「今日は、なにかな?」
「ムーの連中の神官怪人とやらが、すぐこの辺りまで来ています。おそらく陽光市のどこかに。それを感じるんです」
「それで、何を言いに来たのかね?」
「うまく言えないんですが…正直に言えば、しんどい戦いになりそうです。いままでの怪人の現れるときの雰囲気とは明らかになにかが違うんです。こう、陰謀が張り巡らされているというか、奴らは間違いなくすでに街のどこかにいて、暗躍しているんじゃないかと思うんですよ」
博斗は理事長に訴えながら、自分に戸惑っていた。
確実になにかが成されている。
それはわかるというのに、いったいなにがどこで行なわれているのか、それが判然としない、その曖昧模糊とした苦みがじわじわとさっきから頭に響いている。
「思って、それでどうするというのかね? 私には、もう君にアドバイスできるようなことなど何もない。自分自身の考えで判断して行動したまえ。それがいちばん望ましい」
「俺の判断で…いいんですか? 俺を買いかぶりすぎないほうがいいと思いますけどね」
博斗は、理事長と話してもこれっぽっちも不安が拭い去られないことに気付き、唇を噛んで部屋を出た。
中庭に出ると、からっと晴れた白い太陽を見上げながら、ぺたんとコンクリートに尻をついて座った。
そして両手で頭を抱えてすーはーすーはーと口で呼吸をした。
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