ひかりは保健室に鍵をかけると、廊下の窓から中庭の景色を臨んだ。

今日は朝から刺すような気配が感じられる。


明らかに、何者かが街に暗躍している。

気配を隠そうともしないところをみると、来たるべき敵が来たと考えておくのが妥当だろう。


桜はコアの埋め込みにまだ成功していないのだろうか。

それがどれだけ難しいことかはわかっている。


すでにコアと同等の力を持っている強化コスチュームに、さらにブースターを取り付けるようなものなのだから、つけておしまいというわけにはいかない。

増幅された力の暴走を防止するための制御機構など、課題は多い。


自ら手がけてみるべきかとも思う気持ちは強いが、自らに何度も言い聞かせた。

桜に任せるしかない。

私は、すべてを託してそれを見守るだけ。


神官怪人がやってくるいまが、大きな正念場になるだろう。

なんとしても、ここは乗り切らなければならない。

ホルスの生み出した神官怪人に、負けるわけにはいかない。


ひかりはふと横を見た。

いつの間にか、稲穂が並んで景色を眺めていた。


「気付いていますか?」

稲穂は言った。

「ええ」


「どうするんです? いまの彼女たちでは、おそらく…」

「あなたの助けを期待しろというのですか?」

「ち、違います。そういうわけではありません」


「そうでしょうね。あなたは自分を隠すことに固執している。なぜそこまで壁を設けようとするのです?」


「あなただって、瀬谷先生に壁をつくっている」

「そんなことを、あなたに言われる義理はありません」

ひかりはややきつく言い返した。


ひかりと稲穂はしばらく視線を戦わせていたが、やがて稲穂がつと目を反らした。


「なんにせよ、今日は充分に気をつけたほうがいいですよ。もっとも、気をつけたからどうなるというものでもない気がしますけれどね」

稲穂はスカートを翻して廊下へと去った。


ひかりは額に手をあてて苦悩した。


私は、なぜあんなことを言ってしまったのだろう。

私は、彼女にそんなたいしたことが言えるほど人の心がわかっていて?


ひかりは痛んだ心を引きずりながら、ゆっくりと教員室に歩いていった。

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