3
考え事をしながら歩いていた翠は、遥に呼ばれて振り向いた。
「いいですわよ」
翠はそう言ったが、遥に構うでもなくさっさと歩みを進めた。コツコツとヒールが床を刻む。
「そんなに急がなくたっていいじゃない。聞きたいことがあるの」
「聞きたいこと?」
「あのさ、今日、なんかおかしいと思う? 今日なんかおかしな気配を感じたとか、そういうのない?」
「ムーですの?」
「わかんない。あたしは、別になんか感じたってわけじゃないんだけど…」
「ほほ。遥さん鈍感ですからね。他の人が気付いていることでも気付かないのかもしれませんわよ」
「な、なんですって! じゃあ、翠はなにか感じたの?」
「いいえ、なにも」
「あーあ、あんたに聞いたあたしが馬鹿でした」
「でも…」
翠は言葉を継いだ。
「翠様。本日は仏滅ですぞ…って、暁が出掛けにしつこいぐらい言ってましたわ。暁の迷信深さにも困ったのですわね」
「うーん、でもあながちそういうのって捨て難いわよ。だって暦って、星の動きとかそういうのでつくられたんでしょ? 博斗先生の話だと、星の動きって言うのは、ムーにとってはすごく大切なことだったらしいわよ」
「まっさか。わたくしはそういうのは信じませんわね」
といった端から、翠はバランスを崩して遥の肩にしがみついた。
「ヒールが…」
「え?」
翠は、右足のヒールを脱いでひっくり返してみせた。
ぶらーんぶらーんとヒールの足がふらついている。
「ふ、不吉ね…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます