終業のチャイムが鳴ると、遥は稲穂に呼び止められた。


「遥さん。気をつけてください。今日は空気の流れがおかしいように感じます」

「空気の流れ?」

遥は眉をひそめた。


「はい。なんというか、あまり、いい感じがしない日というのでしょうか…」


遥は教室の端に歩いて行き、がらっと窓を開けて外の空を見上げた。

気温は低いが、いい天気だ。

雲はほとんど止まっていて、空はどこまでも青い。

静かな風はもちろん冷たいが、「おかしい」と感じさせるようなふうではない。

「なんにもないと思うけど…」


「いいえ」

稲穂は頑固だった。

「充分に気をつけてください」


遥はふうと息をつくと、笑った。

「わかったわ。まあ、心配してくれてるんだものね。気をつけるわよ」


「ええ。くれぐれも」

稲穂は頭を下げるとぱたぱたと走り去った。


その後ろ姿を見送ってから、遥は再び窓の外を見た。

なにも、変化はないように見える。いつもとなにも変わらないように見える。


確かに、今日はなにか気持ちが落ち着かないような気がする。でもそんなの、自己暗示みたいなものじゃないかしら。

今日はいつもと違うと言われると、そんな気がする、ただそれだけのことなのかもしれない。


遥はきびすを返し、クラスメートに手を振って挨拶を返しながら廊下に出た。

階段に行こうとすると、十メートル離れていてもよくわかるくるくる巻き頭が目について、遥はとととと駆け寄った。

「翠、一緒に生徒会室いこ?」

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