9
放課後になると、司令室に博斗、ひかり、五人が揃っていた。
「はい、博斗さん」
「やあ、ありがとう、ひかりさん。でもなんで二個なんです?」
博斗は、ひかりから渡された二個の包みを持って聞いた。
「一つは、稲穂さんからの預かりものです」
「稲穂君の? やあねえもう、引っ込み思案なんだからん。直接渡してくれればよかったのにん」
博斗はでれでれと笑った。
「なんか喋り方が変になってるよ」
「う、うるさいなあ。とにかく、これでもらいたい分は一通りもらったということになる。では、試食といくかな」
博斗はにやにやしながら、もらった順にチョコの包みを開けていった。
「豆乳チョコは後回しで…」
「えーっ、どうしてですかあ?」
「ど、う、し、て、も。翠君のは…な、なんだこれは…」
博斗は、包装を解いたところで手を止めて凍りついた。
翠をモチーフにしたらしい、ダイナマイトなボディの水着ギャルをかたどったチョコレートが現れた。
添えられたカードを見ると、
「食・べ・て♪」
「…ものすごい寒気がする。誰か助けて…」
「ど、ど、どうしてですの?」
「燕君のは…? ありゃりゃ。割れてるじゃないか」
燕のチョコは粉々に割れていて、まるで原形をとどめていなかった。
「あれ~? やっぱりぶつけちゃいけなかったのかな?」
味はどうかわからないが、こう粉々だと食うのにはちょっと手間がかかりそうだ。
「う~ん。そうすると残りは由布とひかりさんと稲穂のだな」
「あの~、誰か一人ぶん忘れてない?」
「まあ、ひかりさんと稲穂君のを先に食ってもいいんだが、やっぱり一つ目は五人の中からにしたいから、由布かな」
「ねー、僕のは?」
桜がくいくいと博斗の袖をひいた。
「よし、決めた。由布のだ」
「もしもーしっ」
「だあっ! 桜君のはパスだ! なんか怖い」
「な、な、な、なにを言ってるのさ? こ、怖いことなんかなんにもないってば。ただちょっと幻覚を見てハイな気分に…」
「そんなヤバイものをつくるんじゃない! 駄目!」
「ちぇっ」
博斗は、しっしっと桜を遠ざけると、包みをがさがさと開けて、底浅の缶を出した。
缶を開けると、紙の仕切りで区切られた、何種類かのチョコが顔を出した。
そのうちの一個をつまんで、博斗はあんぐりと口を開けた。
「ふっふっふっ。では、さっそく味見といくか」
ま、市販のチョコなんてそんなに味が変わるもんでもない。
うまいとかまずいとかそういうことではないだろう。
特に由布の場合、何をあげるかではなく、人に何かをあげるという行為そのものに貴重な価値がある。
ふと、博斗は考えを止めて、こめかみに手をあてた。
「ん…?」
なんだろう、頭がくらくらする。世界がぐるぐると回り始めた。
「博斗先生? 博斗先生っ?」
博斗は上半身から崩れ、椅子から転げ落ちた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます