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博斗はふんふんと鼻歌を歌いながら教員室で仕事を片づけていた。
抑えようとしても自然と笑みが浮かんできて頬がでれでれと緩んでしまう。
明日はバレンタインデーなのだ。
元来イベント好きではない博斗だし、愛はモノで計るものじゃないとかそんなことを頭で思ってはいるのだが、タダでチョコが食える! この一点において評価に値する。まったく、こんなイベントを考案したお菓子業界には感謝しよう。
だいたい、たいがいの男にとってはチョコをもらうということがうれしいのではなくて、チョコをもらうというシチュエーションがうれしいのだ。
チョコをもらうことで男としてのステータスシンボルになるという意味合いもあるのだろう。
他者から保証されることで始めて男としてのアイデンティティが証明されるとは、実に皮肉なことに男性的ではないな、うんうん。
なんてちょっと学術めいた偉そうなことを考えてみたが、まあ、要するにそんなことはどうでもいいわけだな。チョコが食えればそれでいい。
さてさて。今年はいったい幾つもらえるのだろうか?
去年は生徒からの義理チョコは五個ぐらいだったが、今年はそれに加えて…遥と翠は確実だろう。桜もくれそうな気がする。燕と由布は…わからない。くれないかもしれないな。
あとは、ひかりさんだ。たぶん、くれる…はず…と思いたい…。
「うっしっし」
「いまどき『うっしし』などと笑う人間も珍しいな、瀬谷君」
「ぐえっ、理事長!?」
「なんだ、その『ぐえっ』というリアクションは」
「いえいえ。で、なんですか?」
「簡単な報告だ。スクールファイブについて、ずいぶんと各方面から問い合わせが来るようになっている。名前がスクールなうえに、校旗を武器に振り回したりしているからな。住民からのものはまだいいのだが、陽光放送からの問い合わせはしつこい。この前もリポーターが一人来ていたので門前払いしておいたが…」
「はいはい、もう聞き飽きました~。俺が悪うございました。テレビ局の真ん前で変身させた俺が悪いんです。その点に関しては、スクールファイブの戦闘力を底上げして戦いの負担を軽くすることでなんとかカバーするつもりだって、この間話したはず…」
「それはよくわかっている。君の努力も痛いほどわかっている。だが、いいか瀬谷君。そろそろ限界だ。戦いを始めるときから、いつかはこうなるのではないかと覚悟はしていたが、ムーの攻撃も本格化しつつある。誤魔化しきれなくなりつつある。矢面には、できる限り私が立つ。君達には、出来る限り負担を感じさせないようにしたい…。だが、時間は少ないと思ってくれないか? 来たるべき時は近づいていると」
「奴らと決着をつける時ってことですか?」
「そうだ。どんな決着になるか、まったく見当もつかないがな」
「俺達が勝つか、負けるか、も?」
「そうだ」
理事長は重々しくうなずいた。
「少なくとも、一万年前、君の先祖オシリスが挑んだ戦いは、勝利ではなかった」
「けど、あれは負けでもなかった」
博斗がつぶやくと、理事長はぎょっとして博斗を見た。
「セルジナの遺跡…一万年前はアカデミーだったあの建物で、オシリスのレリーフを見たときに、デジャブ? まあ、そんなこんなで、俺はオシリスの記憶もいま共有しているんですよ」
「そうだったのか…。では、もう私が君にしてやれることはほとんどないだろうな。すべては君に任せてもよいかもしれん。待て。ということは、まさか、酒々井君のことを…」
博斗は寂しく笑った。
「ご想像にお任せします。ただ、俺は、いまいるひかりさんが好きです。それで充分だと思いません?」
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