理事長の顔は険しかった。

「酒々井君は私の知識から外れたところで、一万年前になにかをした。その因果がいまこの瞬間にまで巡っている。君が酒々井君を一人の現代人としてみたところで、酒々井君は、それだけではない運命に動かされているように見えるな」


「運命なんてくそくらえだ。なに、すべて片がついたその時には、俺は大真面目で、ひかりさんにプロポーズしようかなーなんて思ってますけどね。へへ」

博斗は鼻を掻いた。


「瀬谷君。一万年前に比べて、我々に有利な条件が多いことは事実だ。だが一万年前の我々は、決して正面から戦って彼らに打ち勝ったわけではない。なにより、総帥の力は未知数だ。酒々井君でさえかなわぬと自ら言い切る恐るべき力の持ち主だという。そんな人間に、スクールファイブや君が勝てるか? 私にはなんとも言えんよ。直接的な助力が出来ない自分がもどかしいばかりだ」


「なるようになるしかない。俺はいまの世の中が好きか嫌いかって言われたらよくわからないし、正直言って、ムーの文明ってのは、俺達の文明なんかよりも優れているんじゃないかと思えるときだってある。でもそれが、いまの俺達の生活とか、大切なものを破壊していいって論法につながるのはおかしいと思う。だから俺は、やれるところまではやりますよ」


「強くなったな、瀬谷君。いずれ、君にパンドラキーの在処を教えようと思う。私などより君が知るべきものだと思うのでな」

博斗は驚いて理事長を見上げた。


「しかし当座、不安なのは神官のコア。ムーはおそらく、神官のコアを使った怪人を早期に投入してくるだろう。現場の君の意見を率直に聞かせてほしい。いまのスクールファイブが、神官に勝てると思うか?」


「…たぶん、難しいと思います。ただ、俺とひかりさんが加勢すれば、勝算はあると思います」

「酒々井君は、研究と技術の人間だ。個人の戦闘能力はそれほどのものではないぞ」


「わかってます。ひかりさんは、思った以上に繊細で弱い人だ。ホルスとのこともあるだろうから、あまり前線に出したくありません。でも、いざってときにはしょうがないでしょう」


「君にもしものことがあれば、なにをおいても酒々井君は行動するだろうな。しかし、いささか心もとないな」


「レッドアローを、ムーの連中がおかしな空間をつくっても対処するために作らせました。それから、新しい必殺技を桜君に開発させています。それから、神官のコアについては俺にちょっと考えてることがあって…」

「なにかね?」


「ひかりさんの話だと、神官のコアというのは、エネルギーの増幅装置みたいなもんだって。属性に関係なく、感情を力に変換するだったかな、そんな話なんですが…」


「それで?」

「怪人に神官のコアを埋めることが出来るんだとしたら、こっちも、同じ事が出来るんじゃないかなって」


「スクールファイブの強化か?」

「ええ。スクールファイブの服に、なんとかしてコアの機構を取り込めないかと思うんですが…ま、これはひかりさんに依頼済みなんで、もうすぐ出来ると思います」


「それは、もしうまくいけば心強いな。瀬谷君も色々とやっているのだな。実に隊長らしいよい心がけだ」

「じゃあ給料上げてください」


「それはそれ、これはこれだ。…どうした、胸を掻いて、ひきつけでも起こしたのかね?」

「いつかストライキしてやる」


「君はそういうタイプではないな。だいたい、君はお金のためにこの戦いをしているわけではないのだろう?」

「そ、そりゃそうですが、お金と友達は多いほうがいいって、昔からことわざにも言うじゃないですか?」

「言わんな。…どうした、またひきつけか?」


「…もういいです」

「では、失礼しよう。くれぐれも注意を怠らないようにな」

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