博斗はふと首を伸ばして、廊下の先にある保健室のほうを眺めた。

今日はひかりももちろんやってくるのだが…。


博斗は、いままでと変わらずにひかりと接することが出来ている自分に驚いていた。

わざわざひかりが自分の素性を伏せているにはなにかわけがある。

そう思うから、博斗はいままでどおり、博斗とひかりのままでいようと思うのだ。

ときがくれば、きっとひかりのほうから言うべきことを言ってくれる。


教員室に入った博斗は、ちょうどそこでひかりに出迎えられた。

「お、おはよう、ひかりさん」


「ああ、おはようございます、博斗さん」

ひかりはいつものように静かに笑った。柔らかいが、しかしどことなく悲しそうな笑み。


博斗は、その悲しみの原因が少しはわかるような気がしていたが、それだけになんとなくやりきれなかった。


「どうかしましたか、博斗さん? 私の顔になにかついてます?」

「え、ああ…いや、ひかりさんはいつもきれいだなーっと思って」


「あ、ありがとうございます。お世辞でもうれしいですね」

「お世辞じゃないですよ。ほんとにきれいな人だと思う。ただ、どうしていっつもそんな悲しそうな顔をしてるのかなーって」


「悲しそう? 私が、ですか?」

「そう。なにか、悩みがあるんじゃないんですか? もし、俺でよければいつでも話してください。俺は、ひかりさんがつらそうにしてるのはあまり見たくないです」


「ええ、どうも」

ひかりは言葉を濁した。

「気を遣っていただいて、申し訳ありません」


「いいってことです」

博斗は笑った。

「持ちつ持たれつ。俺達は、仲間なんですから」


「ええ、そうですね」

と、ひかりはやや笑った。

「では、私はひとまず失礼します」

ひかりは博斗から目をそらすと、部屋を出ていった。


「あーあっ!」

博斗は大きくため息をつくと、天井を見上げた。


これから、博斗と、博斗達がしなければならないこと。


三月になれば新しい生徒会役員選挙をして、新生徒会役員を選出する必要がある。

ことによっては博斗が理事長に直談判してでも、役員の任期を一年間延ばすことも視野に入れなければならない。

だが、そうすると、彼女たちの進路指導にも影響が出るかもしれない。

できることならなんとしても三月までにムーを倒したい。


だが、三月までにムーを倒すことが出来るのか?

知りうる限り、ムーの残存勢力はマヌ総帥、ピラコチャ、ホルス。それに、神官のコアが三つ。

こっちは、スクールファイブ、博斗、ひかり、神官のコアは一つ。


ムーの幹部クラスが本気を出すと、とてもいまの博斗達では太刀打ちできない。なんとしても、彼女たちの「心」の底上げをする必要がある。


スクールファイブ。陽光生徒会。

ひかり、理事長。

みんな、今の博斗にとっては、かけがいのない仲間であり、博斗の生きがいだ。


それに、陽光の街も、いい街だ。

最近のムーの攻撃は激しさを増している。

だんだんと、街そのものが危険にさらされてきている。


なにがあっても、ムーを倒そう。

そして、みんな揃って、いつかみんな揃って、楽しく語り合おう。


すべてが、終わったら。

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