セルジナ王国に唯一の国際空港である、レンパ・セルジナ空港に、200人あまりの日本人が降り立った。


陽光学園の生徒達はいま、クラスごとに点呼を受けている。

その点呼が終わると、ほとんどの生徒はまずホテルに移動し、生徒会の五人だけが博斗の元に集められることになっていた。


生徒会の五人だけがクラスから別行動をとるということについて、博斗ははじめ、頑固に抵抗したのだが、ひかりから聞かされたことを考え、承諾せざるを得ないと考えた。


まあ救いは一つあった。

理事長は学園に残り、修学旅行には来ていない。

やや溝のあった感のする博斗と理事長の間は、一種の和解のような状態になっていたとはいえ、理事長がいないと博斗は、なんともこう開放的になれるのだ。


なぜか博斗は、このレンパ・セルジナ空港に降り立ったときから、不思議な感じを覚えていた。

まるで自分が、ここに来たのが始めてではないという、ふるさとのような郷愁が博斗の胸に飛来していた。


生まれてこの方、一度も来たことがない国だというのに、体が記憶しているかのようで、博斗はなんとなく落ち着かなかった。


博斗が、飛行機のなかで読み潰した「三時間マスター セルジナの挨拶と日常」と書かれた簡易会話マニュアルによると、レンパ・セルジナ空港の「レンパ」とは、セルジナの言葉で「偉大な」という意味らしい。


王をか、国をか、わからないが、とにかく自分達の精神的支柱をたたえようという姿勢には、確かに、途上国特有の独特の雰囲気がある。


まったく聞きなれない外国語が、空港のあちこちから聞こえてくる。

だが、不思議に博斗は落ち着いていた。


いま、ひかりが空港の事務室に行って、連絡をつけているという。

なんでも、セルジナ新藤王子直々に博斗達を迎えに来てくれるそうである。


生徒会の五人は、セルジナに宮殿に招待されたということに表向きなっていた。

博斗達の目的には、セルジナの助力があると大助かりなのだ。


ひかりが連絡を終え、そして、遥達が点呼を終えてここにやってくるまでは、博斗は暇だった。


この暇を生かさないわけにはいかないと、博斗はぼーっとしながらも、辺りに目を走らせていた。


ぼーっとしている博斗の前を、一人の女性がすっと歩いていった。途端に博斗はぴーんと反応した。


「えーと…『お嬢さん、今日もきれいですね』は…。こうかな? 『ナノティランパ、ラニ、メンチャワレバラバイボ』」


女がくるりと振り向いた。

「え、に、日本人?」


日本人かどうかわからないが、さっぱりした黒髪に、ピンク色の肌。派手すぎずかつ質素すぎないように適度に飾ったその格好を見れば、東洋人なのに間違いはないだろう。


「いやあ、君ももしかして日本人? 俺もなんだよ。こんな地球の裏側で日本人二人がばったり出くわすなんて、きっとなにかの縁に違いない。ということで、どうですか? そのへんでちょっと一緒にソッタでも?」

ソッタというのは、セルジナの言葉で「コーヒー」だ。


「お断り。私、軽そうな人とはお付き合いしたくないんです」

「う…」


女が、ふと博斗の顔を見てなにか考え込んだ。

「あれ? あなた、どこかで…?」

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