イシスは淡い水色のマントをひるがえし、部屋を出た。

イシスと同じように水色のマントを羽織った男が、イシスに歩み寄った。


「とらえた男というのは?」

「五番牢です」

イシスは通路を進み、角を曲がったところで、牢獄に着いた。


五番目の牢の正面に立ったイシスは、不可視なエネルギーのシャッターで遮られた獄の中を見た。


男が、横を向いて海老のように体を曲げ、眠っていた。

これからどう扱われるかもわからない、敵の牢で眠りこけることが出来るとは、いったいどういう神経の持ち主なのだろうか。


イシスは、男を呼ぼうとしたが、男のほうが、いままで寝ていたとは思えない素早さで不意に体を起こした。

眠ったふりをしていただけらしい。


「お前は、誰です?」

「オシリス。一時間前まで、あなた達の最大の敵だった男だよ」


「お前は、私に会うまで誰にも何も言わずに、とにかく私に会わせろの一点張りだったそうですね。いったい、なにが目的です?」


「降伏だ。私はもうあなた達と戦うのが嫌になったんだ」

「ふふ」


「元々、私の先生にそそのかされただけなんだ。お願いだ。私はあなた達の力になれる。私を助けてもらえないか?」


イシスは、このオシリスという男を見つめた。保身ではない。なにかこの男には他の目的がある。

この男は危険だ。イシスの直感がそう告げた。


「また来る」

イシスはそれだけ言うと、立ち去った。


オシリスは、充分に誰何されることなく牢に残されることになった。

それこそ、オシリスが望んでいたことだということを、イシスはまったく知る由もなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る