10
実験室のさらに奥、スクールファイブ用に特化された真の実験室に入ると、ひかりは、壁にかけてあった桜の白衣をつかんだ。
「さあ、あの怪人を倒すことの出来る武器を、いまから創りましょう?」
桜は、あんぐりと口を開けて、ひかりを見た。
「なに、どういうこと?」
「ムーには、さっき奪われたエネルギーで充分です。スクールファイブは変身せずにウチワムーを倒す必要があります。そして、それが出来る武器を創り出すことが出来るのは、あなた以外にいないのですよ、桜さん」
桜は眉をひそめた。
「やろうと思ったけど、無理だったよ。僕の知識じゃあ、ムーの科学力には全然歯が立たないんだ」
「知識なら、ここにありますよ」
ひかりは、人差し指で自分のこめかみの辺りを指差した。
「桜さん。来たるべき最期の戦いに向けて、あなたの力が必要なのです。私の知識を受け継いでくれる人が。もう少し早くあなたに伝えておくべきだったかもしれませんね。私は、あなたに託してみたいと思うのです」
「ねえ、せんせ。なんの話をしてるのさ」
「いいですか、桜さん。腕章とコスチュームは、媒介物であって、それ自体が武器なのではありません。知識で理解できないとしても、あなたはそれを心で理解していました。そうでなければ、メンテナンスなんて出来ませんよ」
ひかりはにっこりと笑い、桜の肩の腕章を示した。
「恥じることも、怖がる必要も、どこにもないのです。この腕章とコスチュームは、あなた自身なんですから」
「僕自身…?」
「いまから、私の知識の一部を、あなたにお分けします。はたして、あなたがその重荷を受け止めることが出来るかどうか、判断しかねていました。しかし…今日のあなたの行動で、確信しました。あなたは、私がその頃には持つことの出来なかった、豊かな心を持っている。大切な人達を、大切だと想う、強くて、それでいて傷つきやすい、小さくてしかし大きな心を」
ひかりは手を伸ばして、桜の頬に触れた。
「さあ、心を解き放って、変身してください」
ひかりの声が響いた。
桜は、腕章が緑色の輝きを放つのを見た。
桜が意識をさらに高めると、強化コスチュームがすっぽりと桜の全身を包み、バイザーが顔を覆った。
「さあ、私の手をとって」
ひかりが言った。
「スクールグリーンの姿のまま、怪人を倒す武器を創るんです。意識を拡大してください。必要な知識をお分けします。それをどう生かすかは、あなた次第です。いいですか、あなたがいちばん大切に想うことを強く想って、決してそのイメージから離れないように」
「離れたらどうなるの?」
「情報の洪水に理性がついていけずに発狂するでしょう」
「わかった」
その瞬間、桜の脳に圧倒的な量の情報が、どっと流れ込んできた。
音、画像、映像、記憶、言葉、宇宙、心。
桜は、自分がどこにいくのかよくわからなかった。
ただ、ひかりの持っていた研究知識、理論のすべてが自分に流れ込んできているのだということだけはわかった。
そのあまりの量と勢いは、桜の頭の回転でも整理できず、桜はひとまずすべて頭のどこかに押し込むことにした。
そして、流し込んだ情報のなかに自分が埋もれてしまわないように、大切なものを求めた。
色々なものがみえた。
桜は、そのなかの一つを確信して、そこにしがみつき、決して離れなかった。
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