ほうほうのていで陽光学園まで逃げた一同は、そのまま司令室まで直行した。


「俺が桜君の話を聞いてくるから、みんなはここで待ってるんだ」

博斗は、桜を連れて司令室を出ると、保健室に向かった。


桜は、さっきから黙ったままで、なにも言わない。

「変身がらみの話は、俺なんかよりひかりさんのほうがよくわかるだろ」


保健室ではひかりが待っていた。

「ひかりさん。桜君が変身できなくなっちまったらしいです。なにか、原因とか、解決策とか、ありますか?」


「変身できない…?」

ひかりはなにか考えごとをしていたらしかったが、二人を見ると立ち上がった。


「博斗さんには前に言ったことがあると思いますが、変身や戦いに要する力は量的なものですが、それがそのままの状態で心に蓄えられているのではなく、心の質的な度合いが、コスチュームを媒介として量的な要素に変化しているのです」


博斗の顔にはすでにクエスチョンマークが浮かんでいた。

「そうですね…。端的に言えば、平静でいる状態からみて起伏した感情の度合い、それによって力が生み出されるということです」


「ええーっと、つまりたとえば、ものすごく怒ったりすると、それだけ強くなるということ…ですか?」

「まあ、そんなところですね」

ひかりはうなずいた。


「ですから、量的に力をどれだけ奪われたところで、強い意志と心を持っていれば、決して力を失うというようなことはありません」


博斗は、桜を見た。

「それじゃあ、桜君が変身できないってのは、いったいぜんたいどうしたわけだ?」


「エネルギーを奪われたときのショックで、一時的に感情の混乱が生じたのだと思います」

「感情が混乱したということは、えーっと…つ、つまり、どうすればいいんです?」


「彼女の心を惑わせていることを、取り除いてあげましょう。そして、元通りの桜さんになるように、自信を持たせてあげるんです」


「桜君、君を悩ませていることはいったいなんだい?」

「…わからない」


「う~ん。いきなり実も蓋もないな。わからないっていっても、なにがどうわからないんだ? なにか、気にとめていることはあるんだろう?」


「僕は、腕章に頼りたくないんだ。これは僕の才能じゃない。僕はせいぜいメンテナンスするぐらいのことしかできなくて、変身のメカニズムの一割だってまだ理解できてないんだ。僕がいままで築き上げてきた僕の理論はいったいなんだったんだろう。ムーのすごさだけがとにかく僕には目につく」


ひかりは、博斗の耳に口を近づけると、そっとささやいた。

「ほんとうは変身できるのに、自分に、変身できないと思いこませた一種の自己暗示ですよ。潜在的にもっていた悩みが、ショックで一気に噴出したのでしょうね」


「自己暗示…ってことは、暗示が解ければいつでも変身できるってことですか?」

「ええ。もちろん。桜さんを、しばらくお借りしてよろしいですか? 私と桜さんの二人だけのほうが進む話のようですから」


ひかりの言い方は、依頼というより、もう、そう決めているという意志を強く感じさせるものだった。

「わかりました。頼みます」

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