「イシス」

シータは言った。


「あら、シータさん。最近はその名前で呼ばれてばかりの気がしますが…私はもうイシスではないと言っていますよ」


「くだらない屁理屈を言っている場合か? いったいどういうつもりだ?」

「なんのことですか…?」


「なぜ四神官のことを瀬谷博斗に教えないのだ? ホルスの言葉通りならば、もう間もなく四神官は復活できるというところまできているのだぞ?」


ひかりは穏やかな眼でシータを見つめた。


「すべてわかっているというのか?」


「私は、あえて四神官については皆さんに伏せているのです。このまま、四神官が復活するのを待とうと思っています」


「なんだと!」

シータは声を荒らげた。

「いったいどういう…」


ひかりは手を振ってシータを制した。そして、シータに聞かせるというよりは、自らに言い聞かせるように喋り始めた。


「確かに、四神官の復活を阻止することは容易です。しかし、そのあとを考えたとき、それでよいのかと思いました。マヌ総帥の力は偉大です。たとえ私とあなたが力を合わせたと仮定しても、総帥の力にはかなわないでしょう。同じことはスクールファイブにも、博斗さんにも言えます」


「博斗? あの男に、どれほどの力がある?」

シータは、疑問を示した。


「あの人の、奥に秘めた意志は強固で力強いものです。ただ、それを表に出そうとしないだけ。おそらく、マヌに立ち向かえるだけの力を持っているのは、博斗さんだけでしょう」


「はは。面白い冗談だな」

シータは笑った。


「冗談…ほんとうにそうお思いですか、シータさん? あの人は、私を変えました。そして、いま、あなたを変えようとしている。あなたは、ご自分で感じていらっしゃらないのですか?」


シータは激怒した。

「やめろ! 知ったように言うのは! お前に私の何がわかる?」


「あなたは、ご自分の理解できない感情の芽生えに戸惑っているのでしょう?」


シータは、頬をぴくつかせたが、大きく息をついて心を落ち着かせた。

「その話はいい。さっきの話を続けろ」


「…そうですね」

ひかりは息を継いだ。

「最終的には、あの子達五人と、博斗さんと私。対するはピラコチャ、ホルス、マヌとなります」


「なぜ私が入っていない」

「わからないからです。私には、あなたがどちらに行くのかわからない。あなたは、私たちに力を貸したり、私たちを窮地に追い込んだり、そのどちらもしています。ですから、ここでは計算にはいれていません」


シータは口をつぐんだ。言い返そうとしたが、言い返す言葉がない。

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