6
安心した桜の目の前で、しゅうしゅうと氷が湯気を立て始めた。
桜は目を見張った。
「嘘だ…。僕の絶対零度を破れるはずがない…」
「うおぉぉぉぉっ!」
ウチワムーは、気合とともに氷のかけらを撒き散らし、全身から湯気を立てながら桜のほうを向いた。
「へっへへへ。なかなかやるな。だが、絶対零度ごときじゃあ、ホルス様に強化された俺の体は凍らない。次は、俺の番だ」
ウチワムーはゆらりと桜に近づくと、ウチワ型の体をばさっと傾けた。
「ウチワムー、超熱波!」
空気が陽炎で歪み、もわっとした熱気の塊が風となって桜を襲った。
桜は悲鳴を上げて飛ばされ、資材の隅に追いやられた。
「うう…」
桜は唇を噛んだ。どんなに努力したところで、生身のままで怪人に勝てるわけがない。
ムーは、桜達の科学の常識とは異なる常識をもった科学を誇っているのだから。
桜がいかに天才といったところで、それはしょせん、この世界でのというだけの話で、ムーとは次元が違う。
桜は、自分の無力さを痛感した。そして、そのいっぽうで、自分から天才という要素を取ったら何が残るのかを考えた。
だが、そんなことはどうでもよかった。ウチワムーが、桜の前に再び迫っている。
桜は、素直になれなかった自分を呪った。みんなに話していれば、こんなことにならずに済んだかもしれない。だが、桜には、それが出来なかった。そのつけが、いままわってきた。
「とどめだ!」
ウチワムーが、やや体をのけぞらせて、熱風を送り出そうと構えた。
「その攻撃、待ったーーーっ!」
先頭をきって現れた博斗は、等身大の団扇の姿を認めると、言い放った。
「やっぱりムーの仕業だったのか! 冬を夏みたいに暑くしやがって! そんな勝手な真似は、日本人として許さん!」
「うるさい、黙れぇ!」
ウチワムーは声を荒らげると、ターゲットを博斗達に変えて熱風を送り出した。
「わわわわっ! あとは頼んだ、タッチ!」
博斗は慌てて遥達と入れ替わって後衛に下がった。
「桜さん」
由布が、桜に手を差し伸べた。
「どうしてここに?」
「博斗先生が…」
桜はため息をついた。
「あの人には、何も隠しておけないのかな」
「桜!」
遥の声が桜を呼んだ。
「一気に片をつけるわ。変身よ!」
「で、でも、僕は…」
桜は言いかけたが、遥から何かを放り投げられて、それを手でつかんだ。
「腕章なら持ってきてあるわ!」
「そ…」
そうじゃないんだ、と桜は言いかけたが、それどころではないことは自分でもわかっていた。
もう一度、試してみるしか、ない…。
四色の光が暗いビルのなかに輝き、四人は姿を変えた。
「桜君! なにしてんだ! 早く変身するんだ!」
桜は、気が抜けたようにぼうっと立っていた。
「なにしてるんだ、桜君! 早くしろ!」
博斗がもう一度叫んだ。
桜は体を震わせて怒鳴った。
「変身出来ないんだよ!」
「なんだって!」
博斗は驚き、同時に、桜が単独行動をとった理由がわかったような気がした。
スクールファイブの様子がおかしいことに気付いたか、ウチワムーが行動を開始した。
ぐわっと体を傾け、熱波を送り出す。
「エネルギー分離波!」
五人は回避しきれずにその波を浴びた。
桜以外の四人の体から、染みだすようにして輝きが漏れ、波とともに光の輝きとなってUターンし、怪人の元に戻っていった。
「お前達のエネルギー、頂いた!」
ウチワムーは言い、再び体を傾けた。
仮設足場から頭だけ覗かせていた博斗は、戦況を見てとって、できる限りの大声で呼ばわった。
「逃げろ、みんな、撤収だ!」
三人はめいめい四方に散り、資材を隠れ蓑にして姿をくらました。
そしてブルーが、自分を見失っている桜を抱え、足場を飛び越えて下の階に消えた。
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