そのときドアが開き、博斗がひょっこりやってきた。

「おっす。集まってるな!」


「先生~、聞いてください~。みんな言うこと聞かないんです~」

「はぁ?」


「ちょっと、お待ちなさいよ」

翠が遥を博斗から引き剥がした。

「みんなじゃないですわ。桜さん一人でしょう?」


遥は澄ました顔で翠を見た。

「まあ、今日はね」

「今日は、ってのがひっかかりますわね」


博斗は遥と翠の顔を交互に見比べた。

「そ、それで? 桜がなんだって?」


遥は、くるっと振り向いた。

「桜が元気ないんですよ。なに言っても生返事ばっかり」


「桜君、どうかしたのか?」

桜は、ゆっくりと顔を上げて、しばらく博斗を見つめた。

だが、眼鏡に隠れたその瞳の色はわからない。


桜は顔を下げた。

「別に。…ときどき、わけもなくアンニュイになるときがあるでしょ? それ以上僕に詮索しないでよ」

桜は冷たく言った。

「女の子の秘密を探るのは野暮な男だよ」


「う…」

博斗は、なんだか自分が悪者にされたような気がして、おほんと咳払いをして話題を変えた。

「そ、それで、なんでみんなここにいるんだ?」


「そんなの、決まってるじゃありませんの。ムーを倒して、普通の冬に戻すためですわ」

博斗は、ふぬけた表情から一転して真剣な表情になった。

「オッケーだ。その返事を確かめたかったんだよ」


「とにかく、早くやっつけちゃいましょうよ」

「同感ですわ」


「ち、ちょっと待って…」

声を挟んだのは、桜だった。

「もし、戦うにしても、エネルギーを奪われないなら奪われないに越したことはないでしょ?」

「まあ、そりゃそうね」


「変身しないで倒せるんなら、そのほうがいい。僕に考えがあるんだ」

桜の眼鏡がきらーんと光った。


「どんな?」

遥は桜に迫った。

「ま、まあ、ちょっと時間をちょ」

桜は言った。


博斗は、うなずいた。

「そうだな。大事をとるにこしたことはない。桜君の言う通りにやってみよう」


「恩にきるよ、博斗せんせ」

桜が、微妙な笑いを浮かべた。

「一時間で戻ってくる」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る