第二十九話「超兵器北極1号」納涼怪人ウチワムー登場

第二十九話「超兵器北極1号」 1

「どうやら、スクールファイブの他にも我々を妨害する勢力があるようです」

シータは淡々と言った。


「ほう…」

マヌは、やや考えた様子だったが、うなずいた。


「私は、スクールファイブの一人からエネルギーを奪い取ることに成功しましたが、そこで何者かの妨害に遭いました」


「妨害者の正体はつかめなかったのか?」

「残念ながら。しかしながら、私と同等の力を持った存在かと…」


マヌは、衣をすりながら低い段を降り、膝を落としているシータの前に立った。

「そうか。…あるいは、イシスかも知れんな」


シータは、マヌがなにげなく言ったその言葉に、しめたとばかりに食いついた。

「その可能性は考えていませんでしたが、確かに考えられます」

シータは首を振った。

「イシスが相手となると、私も少々てこずります」


「だろうな」

「悲しいことです。かつては味方であったもの同士が戦うことになるとは」

「お前から、悲しいという言葉を聞くとは思わなかったな、シータ」

マヌは不気味に笑った。

「お前にも感情というものがあるのかね?」


シータは、唇の端を歪めた。幸い、仮面のお陰でその動きを見られることもない。

「総帥。この件、ピラコチャとホルスには伝えないよう…」


「なにゆえだ?」

「ホルスはイシスのことになると正常な判断力を失います。ピラコチャは、イシスのことを聞けばホルスに必ず伝えるでしょう」


「なるほど。ではそうするとしよう。もうよい。さがれ」

マヌは玉座に戻り、どっと腰を降ろした。


シータは、一礼すると立ち上がり、マヌの前から立ち去った。

陰気な廊下を歩き、ホルスの研究室の前で足を止めた。奇妙な機械と生物に支配された狂気の部屋だ。


「ホルスはいるか?」

シータが部屋の奥に声をかけると、機械の陰からゆらりとホルスが姿をあらわした。

無精ひげがぼうぼうに生え、髪は乱れている。


ホルスは、四神官の所在を突き止め、確認して宮殿に帰ってきてからというもの、研究室にこもったままだ。


「四神官はどうだ?」

「いたって順調ですよ。あなたが集めてくれたエネルギーの量が予想以上でしてね。そうですね、あと少しで四体すべて復活できるでしょう。三体だけなら、いますぐにでも動かすことができますよ」


「なに!」

シータは思わず驚きの声を上げた。


ホルスに不信そうな顔をされ、シータはすぐに弁解した。

「思ったよりもはるかに早いのでな。だが、ほんとうに大丈夫なのか? まだ我々の一人分に達するほどの力もないだろう?」


「心配には及びません。四神官には、動き始めるための最初の原動力さえ与えてやれば充分です。あとは彼らが自分で力を集めていくでしょう」


「それを聞いて安心した。それで、最後のエネルギーを奪うための算段だが…」

言おうとしたシータをホルスが制した。


「ご心配は無用ですよ。新しい怪人は用意してあります。すでにピラコチャが怪人を連れて出立しました」


「なんだと!」

シータは再び驚きの声を上げ、すぐに自ら言葉を付け足した。

「ピラコチャでは不安だな。肝心のところで失敗するのではないか?」


「まあ、気持ちはわからないでもないですがね。今日のところは、じっと座って朗報を待つほうがよいのではないですか?」

ホルスはにやにやと笑いながら、シータに背を向けた。

「では、作業の続きがありますので、これで」


シータはホルスの後ろ姿が機械の陰に再び消えるのを見送った。

「事態は切迫しているようだな。…どうする?」

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