待機中だったモニターの一つに電源が入る。


暗さであまりはっきりとはわからないが、校舎の横のフェンスを飛び越えて、青っぽい影が続々と敷地内に入りこんでいた。


ひかりが操作パネルに取り付いた。

「暗視」


画面に赤いフィルターがかかり、その姿がはっきりと映し出された。


「戦闘員だ」

博斗はつぶやき、理事長は葉巻を灰皿に押し付けて揉み消した。


(聞こえるかスクールファイブ!)


「ん?」

博斗は思わず辺りを見回した。

「なんだ、いまの声は?」


「この声は…ピラコチャ…」

ひかりがぽつりと言った。

「この辺りの、ムーの力を持つ者に念を送っているのですよ」


「ピラコチャと言うと、あのデカブツだな」

博斗は素早く頭を働かせた。シータの次はあいつか。


(新怪人サナギムーを、この学園のどこかに植え付ける。サナギムーは夜明けとともに羽化し、さらに強力な怪人となり、学園を、そして街を破壊する)


「なんだと!」


(そうされたくなければ、夜明けまでに降伏し、パンドラキーを出せ! さもなくば、学園に来る来校者を、無差別に殺していく)


「くそっ!」

博斗はモニターを見上げ、そして、ドアに向かって歩き出そうとした。


「どうするのかね?」

「決まってます! サナギムーとやらを見つけ出して、羽化する前に叩く!」


「それは無理な相談だ。…朝まで待とう。彼女たちが起きてくるまで」

理事長はため息をついた。


「そうしたら夜が明けてしまう! 怪人が羽化する!」

「スクールファイブなら、羽化した怪人でもなんとかなるだろう。少なくとも、君がいくよりもはるかに可能性が高い」


「そしたら陽光祭は?」

「陽光祭は、片がつくまで休止するしかない。こういう事態ならば、君も納得するだろう?」

「納得できません!」


「だったら言ってみたまえ、君にいったい何が出来る? 君に、怪人を倒すことが出来るかね?」


「…で、できます」

「どうやって?」


博斗は黙り込んだ。


いや、待て。


「あれだ、あの、いつだったか貸してもらった、剣みたいな武器。あれなら…」


「あれは、まだ修理中です。桜さんからなんの連絡もまだありません」

ひかりが申し訳なさそうに口を差しはさんだ。


「だったら、俺のこのマッチョな肉体で…」

「冗談を言っている場合かね」


「冗談でもなんでも、あいつらにこれ以上、陽光祭をかき回されるのはごめんだ。…俺は、やります。何もやらないよりはやったほうがいいってのが、俺の持論ですから」


博斗は、理事長の次の言葉も待たずに、大股でずかずかと歩き、シュッとドアを開けて司令室を出た。

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