8
快治は、悲しそうに首を横に振ると、つぶやいた。
「私にも、彼のような人徳がないものかな」
「あの人は、まっすぐすぎるのです」
「ああ、その通りだ。彼は、優しすぎる。あの優しさは、いずれ、自分の身を滅ぼしかねない」
「ほんとうに、優しくて、まっすぐな人です。その優しさは、強い武器にもなり得ます。もう少し、あの人の好きにさせてみては…」
「酒々井君」
「はい?」
「彼が、すべての鍵だよ。彼は失われてはいかんのだ。いかなることがあろうと、そう、たとえスクールファイブを犠牲にしてでも、彼を、彼を守り通す必要があるのだ! なんとなれば、スクールファイブの真の目的は、彼を守ることにこそあるのだから!」
「…」
「彼が怪人の前に直接身をさらすことは避けたいのだよ…。総帥と直接対峙できるだけの力を持つのは彼だけだ。彼を、守らねばならん」
快治は頭を抱え込み、ひかりがいることも気にしない様子でうんうんと一人喋り続けた。
「問題は、パンドラキーという重荷が私のもとにあるということではなく、私のもとに重荷があるということを瀬谷君が充分に理解していないという点にあるのだ。彼にとって、結局パンドラキーはどうでもよいものなのだから。彼は、パンドラキーを守るために戦っているのではないのだから」
快治は苛々と机を指ではじいた。
「理事長さん…?」
「なんだね、酒々井君?」
顔を上げた快治は、やや疲れた表情をしていた。
「パンドラキーは、どこにあるのですか? 私も、それを教えていただいたことがありません」
「それを知って、どうするのかね?」
「ただ、知りたいだけです」
しばらく快治は黙っていたが、何度か縦に振った。
「そう。君の存在だ。君の存在が、一万年前とは異なった因子になっている。決して無視できぬ、大きなファクターだな」
そして、快治はひかりを指差した。
「スクールファイブとともに、彼を…瀬谷君を守ってやってほしい。君の力なら出来るはずだ。ムーの攻撃も冗談ではなくなりつつある。君の力が、天秤を変えることになるかも知れん」
「はい。及ばずながら、できるだけのことはしてみるつもりです。ですから、パンドラキーを…」
「パンドラキーの在処を、君に教えるわけにはいかない。もし私が教えることがあるとすれば、それは瀬谷君だけだろう。とくに、君には教えられん」
快治は指を降ろすと、ふたたび葉巻をその間に挟み、何気ない口調で言った。
「…君は、いまでも瀬谷君を愛しているのだろう?」
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