シータは自室に戻ると、壁に寄りかかり、そのままずるずると腰を床に沈めた。


「くそっ!」

シータは悪態をつくと、仮面を外し、放り投げた。

仮面はかつんと音を立て、壁に当たり、跳ね返った。


邪魔にならないように留めてあった長い髪を下ろすと、静かに息をついた。

シータは、いままでに一度も覚えたことのない苦しい感情に、戸惑いを隠せなかった。


この感情が、スピカムーを斬るに至った原因であることはわかる。

だが、この感情は、いったいなんなのだろうか。


少なくとも、こうして苦しみ葛藤するということは、私は、瀬谷博斗が言うような「心」のない人間ではないのだろう。


心とはなんだろうか。


私は、なぜこれほどあの男に食いつき、食いつかれているのだろうか。


彼を同志に引き込むことが、いつからかシータの行動の目的になっていた。

それは、彼がスクールファイブの鍵だと確信したためであると、シータは自分に言い聞かせていた。


だが、はたしてそれは真実だったのだろうか?

私は、自分が何をすべきか見失いつつあるのではないか。


ムーはよみがえるべきなのだろうか。

確かに、いまの地上の文明には歪んだ側面が多い。


だが、すばらしい側面も多い。

たとえば、人を愛し、愛されること。スクールファイブと瀬谷博斗のように。


そして…。


シータは飛び起きた。そして、荒く息をついた。

そんなはずは、ない。


これからが、問題だ。

イシスや瀬谷博斗やスクールファイブに、動揺を悟られるわけにはいかない。


今までどおり、今までどおりに人間のふりをし続けるしかない。


…もしそれが、さらに私を苦しめることになるのだとしても。

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