2
シータは自室に戻ると、壁に寄りかかり、そのままずるずると腰を床に沈めた。
「くそっ!」
シータは悪態をつくと、仮面を外し、放り投げた。
仮面はかつんと音を立て、壁に当たり、跳ね返った。
邪魔にならないように留めてあった長い髪を下ろすと、静かに息をついた。
シータは、いままでに一度も覚えたことのない苦しい感情に、戸惑いを隠せなかった。
この感情が、スピカムーを斬るに至った原因であることはわかる。
だが、この感情は、いったいなんなのだろうか。
少なくとも、こうして苦しみ葛藤するということは、私は、瀬谷博斗が言うような「心」のない人間ではないのだろう。
心とはなんだろうか。
私は、なぜこれほどあの男に食いつき、食いつかれているのだろうか。
彼を同志に引き込むことが、いつからかシータの行動の目的になっていた。
それは、彼がスクールファイブの鍵だと確信したためであると、シータは自分に言い聞かせていた。
だが、はたしてそれは真実だったのだろうか?
私は、自分が何をすべきか見失いつつあるのではないか。
ムーはよみがえるべきなのだろうか。
確かに、いまの地上の文明には歪んだ側面が多い。
だが、すばらしい側面も多い。
たとえば、人を愛し、愛されること。スクールファイブと瀬谷博斗のように。
そして…。
シータは飛び起きた。そして、荒く息をついた。
そんなはずは、ない。
これからが、問題だ。
イシスや瀬谷博斗やスクールファイブに、動揺を悟られるわけにはいかない。
今までどおり、今までどおりに人間のふりをし続けるしかない。
…もしそれが、さらに私を苦しめることになるのだとしても。
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