第二十六話「博斗対快治の決闘」変態怪人イナズマムー登場
第二十六話「博斗対快治の決闘」 1
シータは、焦燥していた。
シータとしての姿を瀬谷博斗の前から消してから、つとめて平静を装ったまま押し黙り、なんとか一日を終えると、宮殿まで戻ってきた。
このときばかりは人間の演技をやめたいとも思った。
そもそも、人間社会のなかに入り込んでしまったことが間違いだったのかもしれない。
パンドラキーの在りかを探り、あわよくばスクールファイブを味方に引き込むことも出来うると考えての行動だったが、ことはシータの思惑とは逆の方向に進んでいるではないか。
なぜスピカムーを斬ったのか?
瀬谷博斗に弁明したように、奴が命令に従わなかったから、ではないことは、自分がもっともよく知っている。
なんとなく答えは出そうなのだが、しかし、シータの考えは、そこで壁に突き当たる。
自分でも理解できない衝動が、体を突き動かした。その衝動の正体はいったいなんだというのだ?
コツコツと靴音を響かせて歩くシータの前に、立ちふさがるようにしてピラコチャが現れた。
「よう、お面姉ちゃん。また失敗か?」
「黙れ!」
シータはピラコチャを一蹴した。
「おお。こわ」
シータは、言い返しはしたものの、自ら怪人を斬り殺したことをどう説明すべきか考えあぐねた。
「ホルスが、あんな怪人をよこすからだ。私の命令など一つも聞かないひどい奴だった」
「それは聞き捨てならないですねえ」
柱の陰から静かにホルスが姿を現した。
「僕は警告しようとしたはずですよ? それをしっかりと聞かずにさっさと出立してしまったのはあなたじゃないですか?」
シータは舌打ちした。
ピラコチャがにやにやと気に入らない笑みを浮かべている。
「ふん。…それなら、私にどうしてほしいんだ?」
「どうもする必要はねえさ。お前はその辺でおねんねしてりゃいいんだよ」
ピラコチャは背中から斧を抜くと、鈍い音をさせて床に突き立てた。
「次は、俺の番だ。お前はせいぜい総帥への言い訳でも考えておくんだな」
シータは、心に渦巻いていた苦々しい思いと、ピラコチャに対する不快感に耐えられず、剣の柄に手を伸ばした。
「うっへへへぇ、やるかい、シータちゃん? だが…いつもの鋭さがないぜ」
ピラコチャは可笑しそうに唇の端を歪めた。
「シータさん…あなたは、少し休んだほうがいい」
ホルスが、シータの肩に手を乗せた。
「私に触るな!」
シータは、ホルスを壁に突き飛ばし、ピラコチャを一瞥すると、急ぎ足でその場を離れた。
「おお、いやだいやだ」
ピラコチャが、ホルスを助け起こしながら言った。
「ああいう野郎は、なに考えているかわからねえからな」
「イシスといい、シータといい、女という生き物は…」
ホルスは、裾についた埃をぱたぱたと払った。
「…これから、シータさんの動きには、注意したほうがよいかもしれませんね」
「とっくにそうしておくべきだっだぜ。あの野郎、俺に剣を向けようとしやがった。…えぇぃ、腹が立つ!」
ピラコチャは壁を殴り付けた。めりっと拳が壁に入りこみ、宮殿自体が揺れた。
「苛立ちをぶつける場所が違うのではないですか?」
ホルスは、意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「なに?」
「新しい怪人が、できそうなんですよ」
「よこせっ!」
「まあ、落ち着いてください。もちろんお渡ししますよ…ただ」
「ただ、なんだぁ?」
「今回の怪人も、色々と、ありましてね」
「ようし。聞いてやる。俺は、馬鹿頭のシータとはわけが違うからな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます