12
目を覚ました博斗の目にまず飛び込んできたのは、白い天井だった。
「目が覚めたかな」
脇から不愉快な声がする。ぐあ~、目覚め早々理事長のおやぢ顔が~。
「話は、だいたい酒々井君から聞いたよ。モニターでも見ていたしな。たとえいかなる素性、外見であれ、敵は敵だ」
「それは理屈です! じゃあ、理事長、あんたは、もし自分の子どもが、車に轢かれて怪人になったら、戦えるんですか?」博斗は、首を回して理事長を睨み付けた。
「戦えるか、どうかではない。戦わなければならないのだろうな」
「でもそれは、人間としては、正しくないです。…それじゃあ、シータの言う通りですよ。子ども一人の命より、戦いを優先させる…」
「だが、そのたった一人の子どものために、まだ見ぬさらに多くの子どもの命が失われるかも知れないのだぞ」
博斗は、ついにシーツをはねのけ、理事長と正面で向き合った。
「そんなの詭弁だ! 俺は、まだ見ぬたくさんの命より、目の前のたった一つの命のほうが大事だと思います。たとえ、その子がもう死んでいるのだとしても、いや、死んでいるんだとしたらなおさら、せめて、自分の死んだことが無駄じゃなかったって、教えてやりたいし…」
「冷静になりたまえ、瀬谷君。死は死だ。そこに価値ある死かどうかという相対的な判断は存在しない。論理で考えるのだ。感情だけでは戦いに勝つ事は出来ん」
「論理だけじゃシータと同じだ! あいつには感情がない! だから、俺は感情で戦いたいんです!」
理事長はため息をついた。
「君がどういう選択をしても構わんが、忘れないでほしい。君の選択には、われわれすべての運命がかかっているんだよ」
ドアを開けて理事長が出ていっても、博斗は無言だった。厳しい顔で、正面の壁を見つめていた。
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