陽光学園に戻った博斗とひかりは、騒乱の物音を耳にした。

「なんだ?」


戦闘員が波のように保健室に押し寄せ、レッドとグリーンが保健室のドアの前で必死にそれを食い止めている。


やや距離をおいたところに、無骨な体をした怪人とブルーが取っ組み合ってた。


黄ばんだ歯をむき出しにして笑うその横顔は、見間違うものではなかった。

「由布のオヤジ! 怪人だったのか?」


「あの顔は確かに…。由布がムーの血をひいているということは、父方にムーの血があったということですね。それで、彼を怪人の触媒に使った…。これはシータの仕業ですね。手がこんでいて各個撃破を狙ってくる」

そこでひかりはふとため息をついた。

「彼女には、人を愛することや護ることがどんなに大切なことなのか、理解できないのですね」


「くそ、あいつが由布の父親なら、由布への倒錯した愛情はそのまま厄介なパワーになるってことじゃないか」

「強敵ですよ!」


「で、あいつを倒したら由布のオヤジってのは、どうなります?」

「消滅します!」

「…」


無数の戦闘員の体に紛れるように、グリーンとブルーが床に倒れている。

「ブルー達が倒されたのですか! これは相当なものですよ!」


「わかってる!」

博斗はベッドに飛びつくと、由布の手を握り締めた。


「聞こえるか、由布?」

博斗は、一言一言、噛み締めるように言いはじめた。


「父親…俺じゃあ、駄目か? 俺には、君のようなことをされたつらさは、どうがんばったってほんとにはわからない。俺だって男だし…男には暴力で女性を服従させたいっていう征服欲があるんだ。だから俺も、そういう汚い部分が自分にあることは否定しない。俺だって、一歩間違えれば君のオヤジさんみたいになるかもしれない」


由布は昏々と眠りつづけている。だが、博斗は構わず続けた。

「それを否定して『俺は絶対そんなことやらない』なんて言うのは、男の偽善だと思う。でもいまの俺は、少なくとも理性でそういう衝動を抑えこんでいる。それしか言えないんだ。そういうきわどいラインで言うしかないんだ」


博斗は、ポケットから黒い腕章を取り出すと、由布の手の上に重ねた。


「俺もひかりさんも、遥君も翠君も燕君も桜君も、それにたぶん、君のお母さんも。みんな、君が戻ってくるのを待っている。俺達には、由布が必要なんだ。…戻っておいで。つらいことを忘れることが出来なくても、そのぶん、もっと楽しいことを、味わえばいいじゃないか。涙とか、悲しみなんか、心のどこかにひっこんじゃうぐらい、笑って喜べばいいじゃないか! だから、頼む…」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る