6
由布はベッドで静かに眠っていた。
「異常なし? って、いったいどういうことですか?」
「わたしにもはっきりしたことは言えませんが…」
と前置きして、ひかりは由布の容態を説明しはじめた。
「肉体的には、まったく異常がないのです」
「じゃあ、どうして意識が戻らないんです?」
ひかりは肩をすくめた。
「気になったことなのですが…手足の指先に、感覚障害が現れています」
「感覚障害?」
「わかりやすく言えば、一種のマヒ状態です。痺れているんですよ」
「それが何かのヒントになるんですか?」
「…こころの病なんです」
「こころ?」
「こころが、閉ざされているんです」
「なんのことだかさっぱり…?」
「なにか、あの子のこころに過剰なショックが訪れたのです。そのショックを遮断した結果なんですよ」
「ショックって、いったいどんな?」
「そこまではわかりませんが…」
ひかりは首を振った。
「じゃあ、由布はいったいどうなるんです?」
「わかりません。目を覚まさないかも知れませんし、目を覚ますかも知れません。こころは、外からこじ開けるものではありません。この子自身が、戻ってきたいと思わない限りは…。せめて、ショックの原因がわかれば、私達がなにかしてあげられるかもしれませんが…」
博斗はうなずいた。
「それなら、由布のこころを閉ざしてしまった原因を捜すまでだ。そして、由布を元に戻してやるためなら、何だってしてやるさ」
「それを聞いて安心しました」
ひかりはにっこり笑った。
「博斗さんの助けは、きっと、この子の心に、なによりの励ましになるはずですから」
「…とは言っても、雲を掴むような話ですね」
「そうでしょうか。かなり時間的に近い範囲の出来事が引き金になっていると思うのです」
「それじゃあ、スクールファイブを辞めると言い出したことと、やっぱり何か関係があると?」
「そうですね。由布は、なぜ辞めると?」
「父親の世話をする時間がほしい、と言ってましたね」
博斗はそう言ったときの由布の表情を思い出していた。
由布は微笑んでいた。めったに見せることのない表情を浮かべていた。
「確か由布は、母親と二人暮らしのはずだと思いましたが…」
「いや。父親って言いましたけど」
「四年前…ですから由布が中学一年のときですね。両親が離婚、由布は母親に引き取られています」
「母親に引き取られたんですね? 父親じゃなくて?」
「ええ。母親のはずですが…」
ひかりは立ち上がった。
「少し、お待ちいただけますか? 司令室からデータをとってきます」
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