第十三話「昨日を捜せ」 中年怪人オヤジムー登場

第十三話「昨日を捜せ」 1


早朝の陽光学園。

グラウンドの片隅にぽつんと立つ格技場から、勢いのよい音が響いていた。


「やーーーっ!」

だだんっ、と床を強く踏む音。竹刀がぶつかり合うカチャカチャという音。面を叩くスパンという小気味のよい音。


そのなかに、ひときわ大きな声が響いた。

「やめーーーーっ!」

途端に音がやみ、格技場は静寂に包まれた。


礼を済ませると、まわりの部員達は、どっと緊張をといた。

そのまま床に大の字になる者。足を崩す者。すぐに立ち上がって洗面所に駆けていく者。


すっと由布は更衣室に戻った。

話しかけてくる者もおり、ていねいに返事を返しながら、丸めた胴と面を、部室の外のブロック塀の上に並べた。

こうして陽を当てないと、すぐにカビが生えてしまうのだ。


個室がひとつ空いていることを確認しシャワールームに入る。

由布は、腰の辺りから胸元まで肌を手で撫ぜた。

髪の黒さと対照的に真っ白な肌。自分でもわかっている。人と比べて、きれいな肌をしている。

友人達は、みなこの肌をうらやむ。


由布の頭のなかで、かぼそい声がささやいた。

(でも人から見えないところに…)


ときどき、この声が聞こえる。


どういうこと?

聞き返そうとしても、もう答えはない。


誰なんだろう。

わたしのなかにいる、もう一人のわたし。


由布は目を伏せ、きゅっと両手で胸を押さえた。

彼女はわたしが知らないことを知っている。

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