土曜日。

陽光海浜公園の一角にある、総合運動施設、陽光アリーナに、博斗達の姿があった。


コートでは決勝戦が行われていた。

手前に位置するのは他ならぬ翠だ。


今日の翠は、どこかのスポーツメーカーのロゴが入った、ごく普通のラケットを握っている。

つまり今日のゲームは翠の実力がすべてだ。


相手が処理を誤り、ふわっと浮いた球が翠のコートに舞い込んできた。

翠は、大きく振りかぶると、空を切り裂く鋭い音ともに、スマッシュを繰り出した。ボールは矢のように相手のコートのラインギリギリに突き刺さる。


観客席から、勝者をたたえる拍手が沸き起こった。

翠は、ネット越しに相手と握手を交わし、にっこりと微笑んだ。


勝利したことではなく、自分の力を取り戻した自信と、そして、その自分自身の力で戦ったという喜びが、翠をすがすがしい気分にさせていた。


翠は、観客席で手を振っている遥を見た。

わたくしに唯一、土をつけた女。


わたくしはなぜ遥さんにこれほど対抗意識を燃やすのかしら。

遥さんに負けたからだとばかり考えていましたが…もしかしたら、わたくし、遥さんがうらやましいのかもしれませんわね。


わたくしのように、掟や家に縛られずに、奔放に羽ばたいている遥さんが…。


翠は、そっと頬をさすった。

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