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司令室に来た博斗は、静かなタイピングの音が司令室に響いていることに気づいた。
モニターの前に、ひかりがいる。
「あら、博斗さん。どうしたんです? お休みだというのに?」
「うちのクーラーがぶっ壊れたんで、涼みにきたんです。ひかりさんは?」
「私は、夏合宿の資料を少し整理していました」
「そういやあ、ひかりさんに任せっぱなしでしたね。どこに行くんでしたっけ?」
モニターに地図が映し出された。
「御笠山…みかさやまでいいのかな」
モニターの映像が切り替わり、背景の白っぽい空に、美しい三角形のシルエットが浮かび上がった。
「まるで、ピラミッドみたいですね」
「そうです。御笠山は、地元の人たちにピラミッド山と呼ばれています。実は、この付近でピラコチャや戦闘員らしい姿を見掛けたという目撃者が出ているのです」
「え? あいつらは、うちを狙ってるんじゃなかったんですか?」
「スクールファイブに対抗するための何か新しい武器でもあるのかもしれません。世界中にあったムーの兵器や基地も、すべて滅びて行方知れずになりました。御笠山がそのなかの一つだという可能性もあります」
「そんなものを、あいつらに渡すわけにはいかないじゃないですか!」
「ええ。だからこそ、夏合宿の場所にしたのです」
「あ、なるほどね。んじゃあ俺も、いまからちょっと御笠山のこと調べますよ」
「では、資料室を開けますね」
二時間ほどたっただろうか。博斗は、目のまわりをマッサージしながら、御笠山についてまとめた紙がプリントアウトされるのを待った。
御笠山。高さは約百メートル。
背後にはさらに背の高い山々を抱え、前方には異国情緒豊かな港町と海が控えている。
真上からの航空写真で見ると、興味深いことに、現在の北とはほんのわずかにずれた角度を北辺とした、ほぼ正方形と思われる底辺をもつ。
この「ずれ」が、正確に北を指す位置になっていたのは、いまから五千年以上も昔のことであるという。
さらに、御笠山の底辺の各辺の中点から直線を引くと、その直線が、この付近にある、千年以上の由緒があるといわれる神社を次々と拾い上げていく。
しかも、それらは驚くべきことに、ほぼ一定の間隔をおき、御笠山の周囲十キロほどの範囲まで続いている。
御笠山自体にも謎が多い。
地質学的な調査によると、御笠山の土質は、明らかに周囲の土地とは異なる柔らかい土である。
しかも土を削ってみたところ、ある個所では、十メートル以上もまったく同じ土質が続き、また、あるところでは、ものの一メートル足らずで、堅い石の層に阻まれ、それ以上の掘り下げが出来なくなった。
特殊な音波を用いて探査したところ、この土質の謎は明らかになった。
いま見えている木の生い茂った御笠山は、盛り土された衣に過ぎず、御笠山の内部には階段状の石の層が存在することがわかったのである。
このことが報告されてから、オカルト研究家や、探検家が、こぞって御笠山と周辺の調査に乗り出した。
ある者は、御笠山で、すべすべに磨き上げられた球体の石の塊をいくつも見い出した。
それは、天体、おそらくは太陽系をかたどっているのではないかと目された。
またある者は、頂上付近で環状に並べられた石の輪を見い出し、またある者は中央にすっぱりと一つの筋が入った、すべすべの石のテーブルを見い出した。
こうして御笠山には、いつからか、UFOの発着場だの地獄への入り口だの、様々な噂がたてられていった。
だがいまだに、その正体も謎も、一つとしてわかってはいない。
博斗はその下にペンで、自分が調べたことと新たな疑問を書き留めた。
テーブル石に刻まれている正体不明の文字は、南米の遺跡で見い出されるペトログリフと酷似している。
頂上付近で見い出された環状列石は、言うまでもなくストーンサークルだ。
天体か季節か、何かを現しているに違いない。
御笠山から四方に点在するものは神社だけではなく、奇妙な巨石や、神木といわれる古びた木なども、見事に延長上に位置する。
このことから、御笠山が人工物だとすれば、その際には、御笠山を中心とした一帯に、なんらかの儀礼用の空間が作られていたと考えられる。
御笠山がピラミッドなのだとしたら、その目的は何か? 天体観測か? それとも、ほんとうにUFOの発着施設なのか? あるいはまた別の目的があるのか?
博斗はプリントを持って資料室を出た。
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