「ちょっとそっちにいかないか?」

にせ博斗が遥に声をかけた。


並木道から、海のほうに降りていく小道がある。小道はゆったりとした階段になって、海に向けて降りていっている。


「はいっ、いいですよ」

博斗と遥は並木道からそれ、階段状の小道を降りていった。


降りきったところは、海への突き当たりであった。低い柵があるが、そこを越えればもう陽光港である。


ぽつんと、ところどころに電灯が立ち、そして、茂みに囲まれるように、海向きのベンチが置かれている。

潮の香りが、鼻を刺激する。いま二人が降りてきた小道以外に、この広場のような空間に出る道はなく、ここは穴場らしい。


遥と博斗の他には人の姿がない。


「うわぁ…」

遥は息を呑んだ。


真っ正面に、いままさに水平線に沈もうとする夕陽があった。


博斗は、遥を連れてベンチに腰を下ろした。

「この夕陽を、遥君に見せたかったんだ」


ひぃーーーーっ!

元祖博斗は悲鳴を上げたくなった。


「きれいです…」

遥は、その夕陽と同じように頬を赤く染め、博斗の肩に頭を寄りかからせるようにした。

「そうだな。だけど、俺はもっときれいなものを知ってるぜ」


「?」

遥が博斗を見上げた。

「遥君のその眼だ」

博斗はそれっきり口を閉じ、夕陽を見据えた。


元祖博斗は自分という壁を殴り続けた。

寒い~~~~~~っ!

なんつーコテコテなんだ、にせ博斗!


沈黙が、二人の間に流れた。

どこか遠くで、船の汽笛が鳴っている。


ふっと、にせ博斗の手が遥の肩に伸び、遥は抱き寄せられる格好になった。

「あ…」

遥の潤んだ瞳と、博斗の瞳が見つめあう。

磁石が引き合うように、二人の視線は離れない。


なぜ黙るぅ!


なぜ見つめあうっ!


なぜ目を閉じるぅ!


にせ博斗は、遥の肩をぎゅっとつかむと、そのまま被さるようにして、遥をベンチに押し倒した。

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