博斗達は、夕暮れのすでに暗くなりつつある並木道を、陽光タワーに向けて歩いていた。


「なんか、こういうのって、恋人同士みたいだと思いませんか?」

「そうだな。遥君と恋人同士というのは、悪くない」

「えっ?」

遥はわざと聞こえないふりをして、耳に手を当てた。


「遥君と恋人というのは、素敵な響きだ」

博斗は繰り返した。


「え、えへへへへ」

遥はぶんぶんと腕を振り回して、照れを隠した。

「ほんとに、そう思ってますか、先生?」

「なんだ、俺の言うことを疑うのか?」


「ち、違います違います!」

遥は慌てて手を振った。

「なんか、あの、うれしくって、信じられないんです!」


「そうか?」

「だってだって、博斗先生、いっつもひかりさんに鼻の下伸ばしてるし、翠とか桜とか燕とか由布とか稲穂とか、み~んなに鼻の下伸ばしてるし…」


遥は眉を寄せて口を尖らせた。

「あたしが、それでどんなに悲しんでるか、先生、わかってますぅ?」

「そんな風に感じているとは、すまなかったな」

博斗は目を伏せた。


「みんなの仲を裂くわけにはいかない。だから、ああしているだけだ。俺には、遥君がいちばん大切だ。それは嘘じゃない。信じてくれ」

「は、はい!」


遥は、急ぎ足で博斗に追いつき、再び横に並ぶと博斗を見上げた。

「でも、なんか、ほんとにいいのかな…教師と生徒が、こんな、一緒に歩いちゃってて」


「構うもんか」

博斗はさらりと言った。

「あーだこーだ言う奴がいても、俺が、必ず遥君を守ってやるさ」


「は、はい!」

遥は博斗の腕を手繰り寄せると、ぺとりと博斗に貼りついた。


もちろん元祖博斗は、真夏だというのに鳥肌が立つような感覚を覚えていた。


ブツブツブツブツ。


なんなんだ、このラブラブぶりは。

もうやめてくれ~っ、と思わず叫びたくもなるのだが、しかし、元祖博斗も内心では密かに、遥の胸の感触にニヤニヤしていなくもないのでなおさらタチが悪い。


しかし、自分を客観的に見ると、こんなに恥ずかしいものだとは。

確かに、にせ博斗はやや行動が行き過ぎた面はあるが、しかし、基本的には元祖博斗を極端に強調した行動をとっているだけで…。

俺は、こんなに恥ずかしい奴だったのか。死にたい。


五人の仲を保つために、元祖博斗は誰かに感情をできるだけ傾けないようにしているわけで、そこをにせ博斗はうまく使った。


元祖博斗は、決して遥「が」いちばん大切だとは思っていない。

みんな大切だ。誰がいちばんなんてのはない。誰もがみんないちばん大切だ。


しかし、遥はすでにノックダウン寸前で、にせ博斗と幸せ街道一直線になっている。

これは、まずい。

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