遥は小刻みに身を震わせているが、にせ博斗にすべてを委ねている。

にせ博斗は、いそいそとズボンのベルトを外し始めた。

驚異的な速さで、にせ博斗はズボンを降ろし、純白のブリーフをむき出しにした。


そのとき、二人のベンチの裏手の茂みががさがさと蠢いた。

「桜さん、ゴーですわっ!」


翠の指揮に応え、葉の間から、桜が引き金に指をかけた。

「天誅…」


だがその瞬間、遥が勢いよく右足を跳ね上げ、にせ博斗の股間にジャストミートさせた。

「えーーーいっ!」

にせ博斗の体は跳ね上がるように、ふわっと宙に浮いた。

遥はベンチから転がって地面に逃れ、素早く体勢を立て直す。


「? なんですの? 遥さん、どうしたのですかしら?」

「遥が博斗せんせのアプローチを拒否するとは思えないんだけど…」

桜も首をひねった。


「おうぁ、うう。…を…遥君」

にせ博斗は、股間を押さえてベンチに寄りかかり、身悶えしている。


遥は、右手を突き出し、にせ博斗を指差した。

「お前は誰? 博斗先生のにせもの、正体を見せなさい!」


「な…なにを…俺は、博斗じゃないか…」

「そうね。ほんと、すっかりだまされるところだったけど、もうひっかからないわよ」


にせ博斗は、股間を押さえながら笑い始めた。

「くっくっくっ。よく見破った。おとなしくだまされていれば、淡い恋の夢を見られたものを、俺様の正体を知る事になるとはなあ!」


にせ博斗は、相変わらず股間を押さえた無様な格好のまま跳躍し、まだ明かりの点っていない電灯に飛び乗った。


「人間じゃないわね」

遥は、スカートにピンで留めておいた腕章を左腕にはめた。


「そのとおり! どぉいや!」

にせ博斗はその場で宙返りをし、変貌を遂げた。

「コピームー!」


無骨な体躯を持った怪人が姿を現し、電灯がその重みにきぃきぃと悲鳴を上げた。

その胴体は生徒会の印刷室にあるものとそっくりのコピー機だ。


桜達が、茂みから姿を現し、遥と並んだ。

「コピー機のお化けか。でも、コピーするのは紙じゃなくて人間だったってわけだね」


「あ、あららら? ど、どうしたのかな~、みんなして…」


「わたくしは、こんなこそこそした真似は嫌だったのですけれど、桜さんがどうしてもと言うものですから…ほ、ほほほほ」

「よく言うよ。自分で真っ先に言い出したのに」


「今日の博斗先生は、様子が変でしたから…ひかり先生に言われて…」

由布は申し訳なさそうに、遥から目を反らした。


「い、いつから見てたの…?」

「全部だよっ!」

桜が遥の手の甲をつねった。


「…いたぁい、いいじゃない! あたしが博斗先生にアタックしようが何しようが、あたしの自由よ!」


「いや。今回は、にせ博斗先生は、はじめから遥に目をつけていたわけだから、スタートラインがすでに違っていたんだもの…」


「そんなことより…」

由布が、遥達の先頭に体を出し、電灯を指差した。


「そうね。とりあえず、喧嘩は後回しにしない?」

「異議なし。さっさとあのにせものを片づけよう」


「そして、あたしの博斗先生を返してもらわなきゃ!」

「『わたくしたちの』ですわよ」


「はいはい。…じゃ、いくわよ! 変身っ!」

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