8
遥は小刻みに身を震わせているが、にせ博斗にすべてを委ねている。
にせ博斗は、いそいそとズボンのベルトを外し始めた。
驚異的な速さで、にせ博斗はズボンを降ろし、純白のブリーフをむき出しにした。
そのとき、二人のベンチの裏手の茂みががさがさと蠢いた。
「桜さん、ゴーですわっ!」
翠の指揮に応え、葉の間から、桜が引き金に指をかけた。
「天誅…」
だがその瞬間、遥が勢いよく右足を跳ね上げ、にせ博斗の股間にジャストミートさせた。
「えーーーいっ!」
にせ博斗の体は跳ね上がるように、ふわっと宙に浮いた。
遥はベンチから転がって地面に逃れ、素早く体勢を立て直す。
「? なんですの? 遥さん、どうしたのですかしら?」
「遥が博斗せんせのアプローチを拒否するとは思えないんだけど…」
桜も首をひねった。
「おうぁ、うう。…を…遥君」
にせ博斗は、股間を押さえてベンチに寄りかかり、身悶えしている。
遥は、右手を突き出し、にせ博斗を指差した。
「お前は誰? 博斗先生のにせもの、正体を見せなさい!」
「な…なにを…俺は、博斗じゃないか…」
「そうね。ほんと、すっかりだまされるところだったけど、もうひっかからないわよ」
にせ博斗は、股間を押さえながら笑い始めた。
「くっくっくっ。よく見破った。おとなしくだまされていれば、淡い恋の夢を見られたものを、俺様の正体を知る事になるとはなあ!」
にせ博斗は、相変わらず股間を押さえた無様な格好のまま跳躍し、まだ明かりの点っていない電灯に飛び乗った。
「人間じゃないわね」
遥は、スカートにピンで留めておいた腕章を左腕にはめた。
「そのとおり! どぉいや!」
にせ博斗はその場で宙返りをし、変貌を遂げた。
「コピームー!」
無骨な体躯を持った怪人が姿を現し、電灯がその重みにきぃきぃと悲鳴を上げた。
その胴体は生徒会の印刷室にあるものとそっくりのコピー機だ。
桜達が、茂みから姿を現し、遥と並んだ。
「コピー機のお化けか。でも、コピーするのは紙じゃなくて人間だったってわけだね」
「あ、あららら? ど、どうしたのかな~、みんなして…」
「わたくしは、こんなこそこそした真似は嫌だったのですけれど、桜さんがどうしてもと言うものですから…ほ、ほほほほ」
「よく言うよ。自分で真っ先に言い出したのに」
「今日の博斗先生は、様子が変でしたから…ひかり先生に言われて…」
由布は申し訳なさそうに、遥から目を反らした。
「い、いつから見てたの…?」
「全部だよっ!」
桜が遥の手の甲をつねった。
「…いたぁい、いいじゃない! あたしが博斗先生にアタックしようが何しようが、あたしの自由よ!」
「いや。今回は、にせ博斗先生は、はじめから遥に目をつけていたわけだから、スタートラインがすでに違っていたんだもの…」
「そんなことより…」
由布が、遥達の先頭に体を出し、電灯を指差した。
「そうね。とりあえず、喧嘩は後回しにしない?」
「異議なし。さっさとあのにせものを片づけよう」
「そして、あたしの博斗先生を返してもらわなきゃ!」
「『わたくしたちの』ですわよ」
「はいはい。…じゃ、いくわよ! 変身っ!」
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