第八話「途中から来た暴れん坊」 窒息怪人ブルマムー登場

第八話「途中から来た暴れん坊」 1

現在、ムーの宮殿は、すべてが水中に没し、一部のわずかな空間が乏しいエネルギーを元にして、生活のすべを維持しているに過ぎなかった。


宮殿をいまなお支配している四人の人間達は、決して現在の自分達の境遇をこころよくは思っていない。

力を取り戻すためには、動力室のロックを解除するパンドラキーが必要である。

パンドラキーは、日本の陽光市のどこか、おそらくは陽光学園にある。


が、その先にはなかなか進展がなかった。

一万年の昔、ムーの権力者達を追いつめた戦士達が再来し、またしてもその野望を阻止せんとしている。


スクールファイブを討つことは、さほどの困難ではないかもしれない。

だが、おそらくはスクールファイブがパンドラキーへの唯一の手掛かりとなる。

そう考えたシータは、スクールファイブとの接触と揺さぶりを試みているのだが、いまだに効果が上がらない。


いっぽうピラコチャは、とにかく力をもって陽光学園をねじ伏せることを考えていたが、そのたびにシータの制止にあい、渋々と次の機会を待った。


プロフェッサー・ホルスは、そんな二人の争いに巻き込まれて研究を中断されることを恐れ、あえて二人の仲裁に入らず消極的に怪人を創り続けていた。


だが、このような部下達の失態に、マヌ総帥はしびれをきらした。

マヌは三人を玉座に集め、現在のもてる力を出しきって、スクールファイブ殲滅を試みよと厳命を下した。


かくして宮殿の一室に、シータ、ピラコチャ、ホルスの姿があった。


「まだか、ホルス?」

「まあ、そうせかさないでくださいよ。合成怪人のデザインというのは、これでなかなか気を使うものなのですよ」

「俺は見た目なんかどうでもいいっ、つってるだろう? とにかく強い怪人ならそれだけでいいんだ」

「僕にも科学者としての誇りがありますからね。…それに、優れたデザインと怪人の強さは、必ずしも相反する要素とは言い切れませんよ」


「それにしたってよ、俺が注文つけたって、お前、先にシータの怪人ばかりつくってやがったじゃねえか」

「彼女の注文は、いつも単純明快でしたからね。それに、彼女は強い怪人を求めていたわけでもありませんから」

「けっ。そんなこったからスクールファイブに勝てねえんだろうぜ」


黙って聞いていたシータは、もの憂げにピラコチャを見た。

「な、なんだ?」

「いや。…今回の戦いで、スクールファイブの強さがどれほどのものか、はっきりとわかるだろう」


「まるで俺達が負けるみたいな言い方じゃねぇか?」

「『俺達』ではない。お前が、だ。ピラコチャ」

「なにぃっ?」


「おやめなさい、ピラコチャ。彼女とて決して手を抜いているわけではないのですよ。お忘れですか? ただスクールファイブを倒すだけでは駄目なのです。僕たちにはパンドラキーが必要なのですよ」


ホルスは壁際に並ぶ機械に手を触れた。ぶうんという唸るような音とともに、機械が脈動をはじめた。

機械の上部には、乳白色をした液体をたたえた巨大なカプセルが取り付けられており、いま、その液体の中には、昏々と眠る特殊戦闘員の姿があった。


「今回は特殊能力なし、運動能力に特化すればよろしいのですね?」

「そうだ。 今回の作戦にはそれがもっとも適している」

シータは答えた。


「へへ、俺好みでもあるな」

ピラコチャは醜く笑った。


「合成怪人製造装置、作動!」

ホルスは機械から突き出しているいびつな形のレバーに手をかけると、一気にそれを降ろした。

機械から火花が飛び散り、激しい爆発音が響き、カプセルの蓋が勢いよく開いた。


さきほどまで戦闘員であったはずの男は、すっかり変貌を遂げた新しい姿をしていた。

「ブルマムー!」

怪人は、紺色のもわりとした胴体に小さな目をつけ、その胴体から期待されるべき繊細な手足ではなく、筋骨隆々たる無骨な四肢を突き出していた。


「ようし、今回は負けるわけにはいかねえからな、ちょっくらこいつを借りていくぜ」

ピラコチャは怪人を連れて部屋を出ていった。


「やれやれ、僕は、このまま静かに研究さえ続けていられればいいのですがねえ」


「今回はそうもいくまい、総帥直々の命令だからな。…お前も、出陣の用意をしておくことだ」

シータはホルスに言い放つと、マントを翻して部屋を去った。

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