11
「痴漢が消えたぞ!」
博斗は叫ぶと、人を押しのけ、光った吊革に手を伸ばした。
そのとき、列車が大きく揺れ、ドアが開いた。
陽光海岸の駅に着いたのだ。乗客の流れが生まれる。
博斗は、どこかにいるであろう燕を呼んだ。
「燕君! この吊革だ! これをホームに放り出せ!」
「はいはーい!」
燕は、手近な吊革にぶらさがると、そのままターザンの要領で博斗のほうまで飛んだ。
そのまま燕は、博斗の体をつたって問題の吊革をつかむと「ぶちっ」と声を出して吊革をちぎってしまった。
「ばいば~い」
燕はちぎった吊革を、開いているドアからホームに放り投げると、自分もドアから外に飛び出した。
博斗達はその後に続く。
ちぎられた吊革は、ホームの片隅に転がっていたが、光に包まれ、もくもくと膨らみ、ついにその正体を現した。
本当は輪っかのほうが頭でベルトのほうが胴体だったようである。もちろん、その胴体は途中でぶっちり切れている。
「俺っちの大事な体をちぎった奴はどいつだぁ?」
ツリカワムーの体が、燕を正面にして止まった。
「お~ま~え~だ~な~。俺っちがお前を痴漢から助けてやったのによ、恩を仇で返しやがってっ! お前みたいな奴は、破壊だ!」
ツリカワムーは勢いよく跳躍した。
はずだったが、不自然な動きを見せ後ろ向きに吹っ飛んだ。
スクールイエローとスクールグリーンが、背後からツリカワムーをつかんで投げ飛ばしたのだ。
「まったく、どうしてわたくしがトイレのなかで変身しなければならないのですか? 最低ですわ」
「そう言わないの。電話ボックスで変身するのだって、よーく考えればずいぶん間抜けなんだから」
そして二人の陰にはブラックが控えている。
「うおう、いてててて」
ツリカワムーは立ち上がると、新たな敵に向き直った。
ホームの野次馬達は、アトラクションか何かと勘違いし始めたらしく、すでに博斗達は忘れ去られたようになっている。
その博斗に静かにひかりが耳打ちした。
「いまのうちに、トイレで残りの燕さん達を変身させるんです…」
「なるほど!」
いっぽうツリカワムーは、珍妙な攻撃を開始した。輪っか部分を取り外し、円盤のように投げ飛ばしたのだ。
イエローがこれをまともに受け、ホームのすぐ直下に広がる陽光海岸の人工なぎさに転がった。
そのイエローを追って、ツリカワムーの胴体もホームから飛び降りる。
ブラックと、変身を終えたレッドとブルーが弾丸のように飛び出し、怪人とイエローを追った。
砂浜に降りると、レッド、イエロー、グリーンは三人がかりで、輪っかを押え込んだ。
ツリカワムーの輪っかはひぃひぃと必死に動こうとするのだが、さすがに三人に押え込まれては思うようにいかない。
いっぽう、胴体のほうも、なんとか輪っかに近づこうとするのだが、こちらは一人とはいえ力持ちブルーに押え込まれ、やはりどうにもいかない。
ツリカワムーの輪っかがぶるぶると震え、その中心から、ぽんぽんと三人の人間が吐き出された。
一人は中年の脂ぎったオヤヂ。一人は学生らしい若者。そして、もう一人は誰あろう、ひかりに手を出そうとした不届き者の高校生であった。
ツリカワムーの輪っかは、苦しげに助けを求めた。
「な、なぜだ? 俺っちは人間のためになることをした。シータ様はそう言ったぞ。お前達だって、痴漢は嫌だろ?」
輪っかを見下ろすように、ブラックが立った。
その手には、闇の中、白く輝く刃が握られている。
「痴漢は許せませんが、それを利用する卑怯者は、さらに許せません」
ブラックは言い放つと、剣を縦横に振った。
「ぎょえええええーーっ!」
輪っかはきれいに輪切りされ、からからと砂浜に散らばった。
それを見たブルーは、胴体のベルト部分を、押え込んだままキャメルクラッチにもちこんだ。
「らー、」
「めん、」
「まーん!」
と、よくわからない掛け声とともに、ブルーは胴体を二つにちぎり、ぽいっと放り投げてしまった。
「…やれやれ。これで、終了だな」
ホームから戦いの結果を見下ろして、博斗はほっと息をついた。
「まあ、あと一つだけ、やることがありますね。きちんと終わらせましょう」
砂浜に横たわっている三人の人間を指して、ひかりがそう言ってうなずくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます