10

セルジナが陽光学園を去る日がやってきた。


セルジナと吸血事件の関係は、博斗たちしか知らない秘密であり、セルジナは相変わらず、生徒たちにとって人気のある実習生であった。


セルジナも、スクールファイブのことを博斗達に尋ねはしなかった。

あるいは理事長から何かを言われたのかもしれない。


博斗もひかりも、セルジナにスクールファイブの正体を知られた可能性があるからといって、何も心配はしていなかった。


荷物をすべて整理したセルジナが、陽光学園の校門に立っていた。

博斗とひかりだけが見送りだった。


「ミスひかり?」

「はい?」

「エロガンダ、もうナッシングです」

「…」


「But、それでよかったね。ワタシ、自分の国で、自分の目と心で、フィアンセ探します」

「…」


「ミスひかりの心、いま、ある人に向いていまーす?」

「…そう、かもしれません」

ひかりは目を伏せ、つぶやくように言った。


「ワタシ、その人に御恩がありまーす。アンドアンド、その人に、色々なことを教えてもらいましった。ひかりにも世話になりましーた」

「セルジナさん…」


次いでセルジナは博斗に向き直った。

「ミスタ博斗」

「ん?」


「ワタシ、間違ってました。…フィアンセは、モノやトラディッショナルに頼らずに、自分の意志で選ぶものでーすね?」

「俺は、そう思うよ」

「ワタシも、いまはそう思ってまっす。ミスタ博斗のように、たくさんのフィアンセに囲まれるように、もっと自分を磨きまっす」


「なんだい、その、たくさんのフィアンセってのは? 俺はバリバリ独身なんだけど…」

「ノンノン。ミスタ博斗をラブしてる人、たくさん。ワタシ、それわかりましった」

「俺にラブ! そ、それは誰だっ? 教えてくれ、セルジナ!」


「それ、ワタシが言う必要ないね。ミスタ博斗、自分で、よくわかってる」

「?????」


「ミスタ博斗、ワタシ、きっと、ミスタ博斗に負けないぐらい、たくさんのフィアンセ見つけまっすよ」

「…フィアンセってのは普通、一人だと思うんだけど…ま、いいや、なんにしたってさ、嫁さんも自分で決められないようじゃあ、一つの国を引っ張ってくなんて、難しいぜ」


「イエス。まったくその通りでっす。フィアンセも、夢も、みんな自分の力で見つけるものね。これ、ミスタ博斗の受け売りデース」

「俺、そんなカッコいいこと言ったっけかなあ…」


「ワタシ、王子としてもまだまだダメでっした。セルジナのみなさんのこと、忘れそうになりましった」


セルジナは悲しそうな表情をしたが、すぐにそれは笑顔に戻った。

「ミスタ博斗、それを思い出させてくれましった。…ベリー、たくさん、色々教えてもらいましった。勇気づけてもらいましった。…少しは、成長できましった」


「そうか? 俺はなんにもしてないと思うけど…」

「ワタシ、陽光スクール来てよかったです。たくさん、勉強できました」


「ま、そう言ってもらえると、光栄だけどね。セルジナを、いい国にするんだぜ?」

そして、少し考えてから博斗は付け加えた。

「またいずれ、会うことがあるかもしれない」

「オウ! それ、グッドね!」


あの遺跡。


一度しか見ていない写真が、博斗の脳裏にずっと焼き付いていた。

ムーの正体を知るための、一つの手掛かりになるように、博斗には思えてならなかった。


「ま、そんときは、今度は対等の友人として会いたいな」

博斗は右手を差し出した。

「イエス、ミスタ博斗、ワタシ、ほんとに感謝してまっす!」

セルジナは博斗の手を、両手で堅く握り締めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る