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「セルジナ! セルジナ!」
博斗は蔦の固まりに飛びつくと、なんとか掻き分けようとしながら、セルジナを呼んだ。
「ミ、ミスタ博斗! これ、エロガンダ! でもエロガンダ違いまっす! ワタシも、わかりましった!」
セルジナの弱々しいが中から聞こえる。
「くそっ、どけよ、この蔦!」
博斗は、なんとか蔦を引き剥がそうとしてみたが、一つ剥がせばまた別の蔦が伸びるといった具合で、どうにも手がつけられない。
博斗自身も蔦に飲み込まれる危険が出てきた。
やむなく博斗は、自身に絡んでくる蔦を振り払いながら後退する。
「この実習生の利用価値もここまでということだ」
エロガンダの背後から、冷徹な声が聞こえ、忘れもしない、漆黒の装束に身を包んだ女が現れた。
「お前は、シータ!」
「ふふ。名前を覚えていてくれて光栄だよ。瀬谷博斗」
「ふん、忘れたくても忘れられるもんか」
「さて、今回は楽しんでもらえたかな? 色々と工夫してみたのだが…」
「なにぃ?」
「エロガンダが酒々井ひかりの前で咲くようにしたのは私だよ。いや、正確に言えば、エロガンダではない」
と、シータは懐から小さな瓶を取り出した。中には、すでに白っぽく枯れかけた植物。
「ほんもののエロガンダは、この通りだ。怪人オオヅタムーと入れ替えさせてもらったんだよ」
「オオヅタムーだって?」
すると、生徒の血を吸ったのもこの怪人か。
セルジナは嘘をつかなかったのだ。
おそらく、ほんもののエロガンダは、迷信か言い伝えで血を吸うことにされていたが、もちろんただの植物なのだろう。
セルジナは言い伝えを信じ、自分の一滴二滴程度の血の滴を、エロガンダに与え続けてきただけ。
「あんな純真な奴を利用するなんて、許さないぜ」
「ふふふ。許さなければ、どうする?」
博斗とシータはにらみ合ったまま、しばし動きを止めた。
「そういうことだったのですね、シータさん」
後ろからひかりの声が入ってきた。
「ひかりさん!」
「皆さんもです」
と、ひかりが言うと、保健室の窓ガラスに一筋の線が走った。
ガラスは斜めに外れ、だんびらを正眼に構えたスクールブラックがそこに立っていた。
ブラックの脇からは、さらに四つの影が飛び出し、オオヅタムーの本体らしき個所に飛び込む。
ほどなく、オオヅタムーの体が窓から中庭へと押し出された。
その様子を見届けると、シータは舌打ちし、煙のように姿を消してしまった。
「あ…!」
博斗は、いまのいままでシータのいた、何もない空間を見つめるばかりだった。
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