博斗とグリーンは、2号館の階段前にたどり着き、周囲を見回した。

「次は、『徘徊する謎の老人』だったな」

「うん」


二人の耳に、からんころんと階段を踏む下駄の音が聞こえた。

「おでましか?」

二人は身構え、階段を上がってくる人影に目を凝らした。

下駄の音が止まった。


「いま何時だと思うとるんだ。騒いじゃいかん。あそんどらんで、さっさと帰りなさい」

「守衛のじーちゃん…」

「なんじゃ、誰だと思ったんだ?」


耳をつんざく音とともに、渡り廊下から何かが飛んできた。

モップだ!


モップはグリーンではなく守衛のじーちゃんを狙っている。

グリーンはとっさに身を呈して守衛じーちゃんを守った。

だが、続けて切れ目なく石鹸やらトイレットペーパーやらが飛んできて、グリーンは防戦一方となった。


次第に飛んでくる物体のスピードも増し、さすがに変身後でも衝撃が伝わるようになってきた。

痛みをこらえながら渡り廊下を見たグリーンは、敵の正体を確かめた。


敵は、やはりムーの怪人であった。その体は和風便器。そして、和風便器の上にちょこんと花子が腰掛けるという、奇特な二段重ねである。ベンキムーとでも言うのだろう。


「くすくすくす。もう、遊ぶの飽きちゃった」

ベンキムーというか、その頭に乗っている花子がそう言うと、手から吸盤付きスポイトが放たれた。


キュポッという間抜けな音とともに、グリーンの頭は見る見る吸盤に包み込まれる。

「うっ!」


グリーンは思った。あーあ、やっぱり、僕には似合わないのかなあ。こんなカッコ悪いやられかた、やだなぁ。


「てーーいっ!」

そのときどこからか勢いのいい掛け声がしたかと思うと、取っ組み合うような物音と、きーきー叫ぶベンキムーの声が交じり合った。


そして、グリーンは頭を引っ張られ、すぽっとスポイトを外されて元に戻った。

「お待たせ!」

そこには、レッドの顔があった。


「あ、あれ、みんな…」

「まったく、あんなもの頭に被せられるなんて、ヒーローにあるまじきカッコ悪さですわね」

イエローが、床に転がっているスポイトを示した。

「ごめん。…油断した」

「仕方ないですよ。一人で戦っていたんですから。遅れた私たちこそ、謝るべきです」


「とおーーっ!」

とブルーが掛け声一閃、花子を本体の便器から引き剥がし、ぶるんぶるんと振り回してから放り投げる。


「やっぱ、最後は五人で決めないとね」

レッドがグリーンに声をかけた。


「そうだね」

グリーンは微笑し、技の構えに入った。


「えーい、スクール、ウェーブ!」

五人の元から、五色の光が放たれ、ベンキムーの二つの分身である、花子と便器をともに包み込む。


「ぎょええーーっ!」

ベンキムーは光に包まれ、光がやんだときには、あとかたもなく消滅していた。

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