8
博斗とグリーンは、2号館の階段前にたどり着き、周囲を見回した。
「次は、『徘徊する謎の老人』だったな」
「うん」
二人の耳に、からんころんと階段を踏む下駄の音が聞こえた。
「おでましか?」
二人は身構え、階段を上がってくる人影に目を凝らした。
下駄の音が止まった。
「いま何時だと思うとるんだ。騒いじゃいかん。あそんどらんで、さっさと帰りなさい」
「守衛のじーちゃん…」
「なんじゃ、誰だと思ったんだ?」
耳をつんざく音とともに、渡り廊下から何かが飛んできた。
モップだ!
モップはグリーンではなく守衛のじーちゃんを狙っている。
グリーンはとっさに身を呈して守衛じーちゃんを守った。
だが、続けて切れ目なく石鹸やらトイレットペーパーやらが飛んできて、グリーンは防戦一方となった。
次第に飛んでくる物体のスピードも増し、さすがに変身後でも衝撃が伝わるようになってきた。
痛みをこらえながら渡り廊下を見たグリーンは、敵の正体を確かめた。
敵は、やはりムーの怪人であった。その体は和風便器。そして、和風便器の上にちょこんと花子が腰掛けるという、奇特な二段重ねである。ベンキムーとでも言うのだろう。
「くすくすくす。もう、遊ぶの飽きちゃった」
ベンキムーというか、その頭に乗っている花子がそう言うと、手から吸盤付きスポイトが放たれた。
キュポッという間抜けな音とともに、グリーンの頭は見る見る吸盤に包み込まれる。
「うっ!」
グリーンは思った。あーあ、やっぱり、僕には似合わないのかなあ。こんなカッコ悪いやられかた、やだなぁ。
「てーーいっ!」
そのときどこからか勢いのいい掛け声がしたかと思うと、取っ組み合うような物音と、きーきー叫ぶベンキムーの声が交じり合った。
そして、グリーンは頭を引っ張られ、すぽっとスポイトを外されて元に戻った。
「お待たせ!」
そこには、レッドの顔があった。
「あ、あれ、みんな…」
「まったく、あんなもの頭に被せられるなんて、ヒーローにあるまじきカッコ悪さですわね」
イエローが、床に転がっているスポイトを示した。
「ごめん。…油断した」
「仕方ないですよ。一人で戦っていたんですから。遅れた私たちこそ、謝るべきです」
「とおーーっ!」
とブルーが掛け声一閃、花子を本体の便器から引き剥がし、ぶるんぶるんと振り回してから放り投げる。
「やっぱ、最後は五人で決めないとね」
レッドがグリーンに声をかけた。
「そうだね」
グリーンは微笑し、技の構えに入った。
「えーい、スクール、ウェーブ!」
五人の元から、五色の光が放たれ、ベンキムーの二つの分身である、花子と便器をともに包み込む。
「ぎょええーーっ!」
ベンキムーは光に包まれ、光がやんだときには、あとかたもなく消滅していた。
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