博斗とグリーンは、階段を見た。

「次は…恐怖の音楽室だったな」


二人は渡り廊下を抜け、2号館に踊り込んだ。二人はピアノの音を耳にした。「エリーゼのために」のようだ。


博斗はグリーンと連れ立って、音楽室に足を踏み入れた。

ポロンポロンと、ピアノのしらべが耳に入る。


博斗はピアノを見た。

「また、お前か」


ピアノを弾いていたのは花子だった。

花子は、さきほどまでとは似ても似つかぬ耳障りな笑い声を上げると、かき消えた。


「ちぇっ! まだ追いかけっこがしたいらしい。次は、歩く『考える人』か」

「美術室だね。…隣だよ」


音楽室の隣が美術室である。

今度はドアを開けるまでもなかった。

ドアは内側から蹴破られ、見たことのある『考える人』の石像がのっしりと姿をあらわした。


『考える人』は、腕を組んで立ちはだかる。こうなると、もう『考える人』と言えないのではないか。

「僕たちの邪魔は出来ないよ」

グリーンが言った。


「?」

考える人が、考え込んだようだ。


「なぜなら、君は本当の『考える人』じゃないからだ。さっさと美術室に戻りな、にせもの」


桜に指摘され、『考える人』は、「にせもの」という言葉に憤りを示すかのように、どすどすと足を踏み鳴らした。


「にせものの証拠はね、手だよ。ホンモノの『考える人』は、右手を顎に当てて考えてるんだよ。でも、君はいつも左手を顎に当てていたでしょ?」


『考える人』は頬に手を当てて顔を歪めた。ムンクの『叫び』を表現したいらしい。


「さ、わかったら戻った、戻った」

グリーンはしっしっと手で『考える人』を追い払った。


「よく説得できたな、あんな堅そうな奴」

「へへ。とにかくそれっぽいこと言って、有無を言わさないのがコツだよ。ヤマトはだませても僕らはだませないって」

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