6
「誰だっ!」
博斗は叫ぶと、壁に背をつけて身構えた。
「こうして学校に怪談話を広めれば、いずれ生徒は怖くなって学校に来なくなる。そうすれば、だんだん若者達はバカになっていき…やがて、パンドラキーのありかを私たちにバラすはずよ!」
博斗と桜は顔を見合わせた。
「なかなか遠大な計画だな」
博斗はせいいっぱいの皮肉をこめていった。
「それはわかったから、さっさと正体を現せ!」
「ここよ、ここ」
博斗は、声の元を探った。
…洗面所だ。
「そう。そこよ」
声はすれども姿は見えず。
洗面所もいたって普通の…。
「はくとせんせ、後ろ…」
桜が正面の鏡を指差した。
鏡には、博斗の後ろにせまりつつある幼い少女の歪んだ顔が映し出されている。
「!!」
博斗が振り替える間もなく、花子は博斗の首に手を回した。
ぞっとするほど冷ややかな感触が博斗の首筋を包む。
「せんせから離れろっ!」
桜が、マルスを棍棒代わりにして花子に打ち据えた。
意外にも手応えがあり、花子は一言「ぎゃっ」と叫ぶと、手をゆるめた。
博斗は、生身の桜が博斗を守るために見せた意外な勇気に少しだけ感動した。
「いまのうち。ひとまず、逃げるぞ!」
「異議なし!」
二人は脱兎のごとくトイレの入り口に転げ出ると、逃げ道を探した。
「考えてる暇、なさそうだよ」
桜はこの階にある三年生の教室を指差した。
なんと、教室のドアがひとりでに開き、中から何かがこっちに飛んできた。
博斗はとっさに顔を覆い、腕に赤チョークの痛みを受けた。
「いてっ! こりゃチョークだ!」
「黒板消し、雑巾、バケツ、ホウキ、教科書!」
桜が矢継ぎ早に連呼した。
「で、出た! 机、椅子! 教卓!」
「と、とにかく逃げるぞ!」
幸い、机椅子クラスの大きさのものは、ほとんど博斗達に届く前に壁にぶつかって床に落下した。
ガコングシャンと、とんでもない騒音が漆黒の校舎に鳴り響く。
とっさに博斗は、階段に向かった。
一段抜かしで階段を飛び降りていく。
それより少し遅れ、桜がちょこちょこと一段ずつ駆け下りて来た。
「大丈夫か?」
「はあ、はあ。…大丈夫だけどちょっと変だよ、せんせ」
「なにが?」
「この階段だよ。…確か十五段しかないはずなのに、博斗せんせ、一段抜かしでぴったりだったでしょ?」
「そういやあ、そうだったっけ」
…よく逃げながらそんなところまで見てたな、この子は。
「んで、それが?」
「だからあ、段数がおかしいってば!」
博斗はいましがた駆け下りてきた階段の段数を数えてみた。
「…十五段だな」
博斗は一段抜かしで、今度は駆け上がってみた。
「げっ! ぴったりだ。十六段ある…。いや、そんなはずはない。どっかで数え間違えたんだ!」
「いや。せんせ。…わかった気がする」
「なにが?」
「これもウワサ話なんだけどさ、この前、陽光アワーズに出てたんだよ。『陽光学園七不思議』ってやつ」
「う、出たなお約束。それで? どんなやつなんだ?」
「1.1号館三階トイレの花子さん。2.夜な夜な飛び交う机と椅子。3.段数の変わる階段。4.恐怖の音楽室。5.歩く『考える人』。6.徘徊する謎の老人」
「7番目は?」
「不明。募集中って記事だったんだ。たぶん、この七不思議の通りに異変が起きてるんだよ」
「よーしよーし。相手にもそれなりの考えがあるってことだ。物の怪のたぐいじゃないってことがわかれば、手の施しようもあるだろ」
「キャップ!」
桜は、博斗をその呼称で呼んだ。
「ああっ! 戦士たった一人と、役に立たない一般人が一人だが、戦うぞ!」
「へんっ、しんっ! スクールふぁぁぁぁいぶっ!」
輝きが消えた後には、スクールグリーンが立っていた。
「頼んだよ、『ヒーロー』くん」
博斗は親指を突き立てた。
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