5
くすくすくす。
かすかな笑い声が聞こえ、博斗はトイレの入り口を睨み付けた。
桜は博斗に並んで立ち、マルスに手を添える。
博斗は、トイレのドアを蹴り開けると、トイレに身を躍らせた。桜が続いた。
闇に包まれたトイレには、誰もいない。二人が入ると同時に、笑い声はやんでいた。
桜が手探りで明かりのスイッチを探り当てると、蛍光燈の陰気な明かりが、静かなトイレを照らした。
奥から二番目の個室のドアが、閉まっていた。
「さてと。桜君、その、花子さんを呼び出す手順とやら、君はどんなのを知ってる?」
「僕が聞いたことがあるのは確か…ドアを二回ノックして花子さんを呼ぶと、返事するっていう奴」
「俺がガキの頃に知ってたのは、水を三回流すって奴だったな」
博斗は一歩二歩と個室に近づいた。
花子さんの呼び出し方と、ウノのやり方については、学校の数だけルールが存在するものだ。ならば、手当たりしだい試すしかない。
博斗は、問題のドアの正面に立った。
こん、こん。
続けて、ささやいた。
「花子さん、いますか? いなかったら返事してください」
言い終わるや否や、突然ドアがバンと手前に開き、博斗は、何が起きたかを確かめる余裕もなく、弾き飛ばされた。
桜が駆け寄り、博斗を助け起こした。
「せんせ、大丈夫?」
「いてて…なんだってんだ、いったい?」
ドアにぶつかった肩を押さえ、博斗は開いた個室を眺めた。
やはりそこには誰もいない。
「ちぇっ、花子さんにはご冗談が通じないらしい」
博斗と桜は、恐る恐る個室に踏み込んでみた。
もちろん人影はおろか、人のいた気配すらない。
ざっと見回してみたが、テープレコーダーのようなものもなければ、ドアを勢いよく放つための仕掛けもない。
桜は懐中電灯で便器の中まで照らしていたが、鼻をつまんで顔を上げると、博斗に首を振ってみせた。
「誰のイタズラかな?」
「イタズラとは思えないな。個室にはなんの仕掛けもない。ほんとに、花子さんでもいるんじゃないか?」
「まっさか。僕はそんな非科学的なもの信じないよ」
「もし花子さんがいないとしよう」
「うん」
「そしたら、いまのドアの跳ねっ返りはいったいなんだ? 何の仕掛けもない、風もないってのに、あんな開き方があるか?」
「うーん。それは…」
「ひかりさんが、一つの可能性を考えていた。だから俺も出向いたわけだが…」
「?」
「この事件が、ムーの仕業じゃないかってことさ」
「ムーがいったい何の目的で?」
「そんなもん知らないよ。ただ、そうとでも考えないと説明つかないだろ?」
「ま、そりゃ確かに、ムーの怪人ならこういうこと好きそうだけど…」
「うふふふふふ。大正解」
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