博斗は倒れた三人を前に、マイクムーとピラコチャに向き合っていた。


感情的になりすぎたレッドは、音程を外してしまい、80点で敗れ去った。グリーンの推薦で次にチャレンジしたブルーもまた、83点で散った。


博斗は、グリーンを見た。


「い、いや、ダメ、ダメ、ぼ、僕、音楽だけはからっきしで…」

「他に誰が歌うんだ? 頼むよ」


グリーンは折れた。

渋々といった感じでマイクを握ると、博斗のほうを一度振り返った。

「どうなっても、知らないよ」


そして。


「ホゲ~~~~~~~~~~」


「!!!!!!」

この世のものとは思えぬ奇怪な音がグリーンの持つマイクから発せられた。


博斗は慌てて耳を塞いだ。

しかし、その程度の防音はものともせず、恐るべき毒声は鼓膜から脳髄を刺激する。


空気が歪み、辺りの温度が上昇する。

体育館のガラス窓が次々に砕け散っていき、激しい衝撃音とともに、天井のライトまで墜落して来た。


ステージのカーテンはぶちぶちと落下し、バスケットゴールがめきめきと割れて、床に落ちた。眠っているはずの一般生徒達までうめき声を上げている。


遠くのほうのあちこちで、救急車のサイレンが鳴り始めた。体育館を通り越して市街地にまで被害が及んでいるらしい。


「こ、これじゃ怪人よりタチが悪いじゃないか!」

博斗達だけではない。ピラコチャとマイクムーも、同じように悶えている。

強化ブレザーに包まれているはずのスクールブラックまでうなっているではないか。

「やめ、やめーっ! グリーン! 中止、中止!」


ぴたりとグリーンは歌をやめた。

「だからやめたほうがいいって言ったのに…」


「はあ、はあ…ま、まさかこれほどとは。『ホゲー』は、ジャイ●ンにしか使う事の出来ない擬音だと思っていたのだが…」


いっぽうマイクムーも、いまのはさすがに応えたらしかったが、ルールは忘れていなかった。

「け、結果は分かってると思うが、いちおう採点だ」


採点は一瞬で終わった。

それほど、わかりやすい結果だったということだろう。


「よ、4点」

博斗は失望を通り越して苦笑いした。


マイクムーの腕からしゅるしゅるとコードが伸びてグリーンに巻き付いたかと思うと、激しい火花が飛び散った。


「きゅうっ」

グリーンは一声上げると床に突っ伏した。

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